給湯室 8 2013/07/19__00:00

＊現代パラレル

『給湯室』（初回：6月25日）1 2 3 4 5 6 7　続き

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　地下鉄の階段を上って地上に出ると、交差点の斜向かいにスーパーが見える。
「お前んち、どっち？」
　男はスーパーの見える方とは逆を指差す。
「途中にスーパーとか、ある？」
「コンビニしか無ぇ」
「じゃ、あそこ寄ってくか」

　交差点を渡る間も、スーパーでカゴを持ってからも、ヒアリングは続く。
「酒は何飲む？」
「ビール、焼酎、日本酒。いっぱいあるから買わなくて平気だ」
「いつもつまみは何食ってんの？」
「乾きもんとか、コンビニで何か買ったり。冷凍の枝豆、あれは便利だな」
「ひょっとして、それが晩飯か？」
「外で食って帰る事もあるけど、大体な」
「嫌いなものは？」
「特に無い」

　タマネギ、じゃがいも、ニラ、もやし、豆苗、大葉、油揚、ベーコン、豚小間、スライスチーズ、塩昆布、片栗粉。

　千円ちょっとのお会計は、男が財布を出した。
「俺も飲み食いするつもりだぜ？」
「当たり前だろ？」
「酒もお前持ちなのに、材料費もお前が出すの？」
「わざわざ来て作って貰うんだから、当たり前だ」
「そりゃごちそうさまです」
「お車代は出ねぇぞ」
　俺が袋に詰め終えた食材を、男は当然の様に持ってスーパーを出た。

　横断歩道を二回渡って、地下鉄の出口に戻った。そこを通り過ぎて次の交差点で横断歩道を直角に渡る。
　渡り終えて、どうにも腑に落ちない。酷く無駄な事をした様な。

「なあ、スーパー出て、直接こっちに渡れば良かったんじゃねぇの？」
「あ？そんなんしたら、分かんなくなるだろ？」
　何言ってんの。
「ていうかさ、出口、こっち側から出れば良いんじゃねぇ？」
　地下鉄の出口は、道路を挟んだこっち側にもあった筈だ。
「何言ってんだ？」
　確かに改札出て直ぐの階段を上ったらあっち側に出たんだけど、わざわざ横断歩道渡ってまであっちの出口使う理由は無いだろ？
　いや、あるのか。迷子になっちまうから。

　迷子になる余地のないまっすぐな道を三ブロック歩き、丁字路の角にあるコンビニを左に折れて直ぐ、男のアパートに着いた。

→9　

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