給湯室 5 2013/07/12__00:00

＊現代パラレル

『給湯室』1（6月25日付） 2（7月4日付） 3（7月10日付） 4（7月11日付）続き

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　向かいの給湯室の窓が開いていた。そして男も居る。俺が窓を開けると、徐に怒鳴った。
「チーズケーキも美味ぇな。お礼だ、受け取れ」
　立派なりんごが三つ、次々と投げられた。ずっしりと重い。
「随分立派なりんごだな」
「実家で作ってる。送ってくるんだが、そんなに食えねぇ」
　これで何か作れって事か。再びの挑戦状か。腕が鳴る。
　マフィンもチーズケーキも、美味いと言った。厳つい顔して意外と甘党だな？
　ダメだ、頬が弛む。

　一つはそのままいただいた。少し酸味が強いか。残りの二つを使って、アップルパイを焼いた。


　翌日。給湯室に男が来たのを見て、窓を開けた。同時に向かいの男も窓を開ける。
「お裾分け。お前んとこのりんごで作った、アップルパイ」
　チーズケーキと同じ様に、プチプチで包んで投げる。男は直ぐさま剥いで、ラップも剥いで、そのまま齧りやがった。
「美味い」
　あーあー、まだ口の中に入ってるのに。
　俺は煙草を吸いながら、男がアップルパイを食べるのを見ていた。

　凄いスピードで食べ終えた男は、持参していたタンブラーをぐいと傾けて飲んだ。あのコーヒーが入ってるんだろうか。嚥下したと見える。すうと口を開き、怒鳴った。
「菓子しか作れねぇか？」
「馬鹿言え、何でも作れる」
「酒に合う飯は？」
「十八番だ」
「食いてぇ」

　え？

「…良いぜ？」
「今夜は？」
　また随分急なお誘いで。
「どこで？」
　男は暫し視線を宙に巡らした。何だよ、考えてなかったのか。
「…うち？」
　それまた随分、随分なお誘いで。
「…よし、仕事終わったらこっちの会社に迎えに来いよ。待ってるから」

　何だこりゃ。
　家に誘われたぞ？どういう事だ。飯作れって？
　で？
　なにあっさり誘いに乗ってんの、俺。

　いろいろな疑問は、『直ぐに出来上がる、酒に合う飯』のレシピに、頭の隅に追いやられた。

→6　

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20130628-0711

＊普段脳内がグランドラインを彷徨っている都合上、季節感には頓着しておりません。
　この話、この時は、秋、です。朝晩は冷える様になりましたね、って感じの頃。
　（季節感無くて申し訳ありません。）（だってゾロがりんご投げるから。←）