給湯室続編・恋人 2 2013/11/21__00:00

＊6月25日から8月2日まで連載していた現代パラレル『給湯室』の続編　→1
　11月13日付『誕生日の夜』翌日と、サンジの過去

　 前回：11月20日付

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　女の子が大好きだ。
　柔らくて、気持ち良い。けれど、もっと気持ち良いのは——。
　悦ばせるのは楽しいし、興奮する。けれど、もっと興奮するのは——。
　それを俺に教えた男が、3m先に、居る。


　海外にね、支社があって。そこに行かなきゃなんない。最低二年とかって。その後も、どこ行かされるか分かんないんだ。
　俺、期待されてんだって。若いうちにいろんなとこ経験して、将来的には幹部コースだ、って言うんだけど。
　サンジと会えなくなるのは、辛いけど。
　俺も男だし、仕事出来なきゃ、話になんないだろ？
　サンジ、——大好きだよ。


　そう言って、俺の前から消えた男が。
　3m先に、居る。俺の、新しい恋人の隣に。


　一緒に、は、行けない…、よな。
　待っててくれ、とは、…言えない、よ。
　ごめん、サンジ。好きだよ、サンジ。大好きだ。
　——幸せに、なって。


　あれから何年だ？
　エースが慣れない海外で頑張っているだろう二年の間、エースからの連絡は一度も無かった。エースは連絡先も寄越さずに行った。その意図は連絡するなって事だろ、と思えば、自分から連絡先を探す気にはならなかった。

　来い、とも、待て、とも言わなかったくせに、大好きだと言った、エースは。
　来て欲しくなかったし、待って欲しくなかったんだ、それなら傷付けて行けば良いのに、恨ませてくれれば良いのに、未練ばかり置いて行った、エースは。
　狡い。
　そう思える様になったのはいつからだろう？

　連絡先を探す気になれば、出来たのだ。
　来いと言われても、行けなかった。待ってろと言われても、無理だった。
　それでも、エースは俺に、愛された記憶を残してくれた。
　そう思える様になったのはいつからだろう？

　二年を過ぎてからも、連絡は一度も無かった。
　最低二年なんだからまだ海外に居る可能性だってある、そんな考えは馬鹿げている。俺は探せる筈の連絡先を探さない。だったらこの別れは、当然の帰結だろう。
　二人で、出した答えだ。
　そう思える様になったのはいつからだろう？

　忘れたと思ってたけど。こんなにも、思い出せてしまう。一目見ただけで、こんなにも鮮やかに。
　苦しさや、痛み、——幸せだった日々。


　ゾロがエースを、不審気に見ている。
　ゾロが俺を、不審気に見る。

　エース、何でこのタイミングだよ。何でよりによって、ゾロと居るんだ。俺、今から新しい恋人と、ちょっと嬉し恥ずかしな対面する予定だったのに。酷ェよ。
　そんな恨み言、エースに言ったってしょうがねぇんだけど。
　ここのところはエースの事、思い出さなかったんだ。それはゾロが居たからで、そのゾロと、思いが通じたばかりなんだ。まだそんな段階じゃねぇんだよ、ヤキモチ妬かせたりとか。始まったばっかりなんだよ。

　…取り繕わなくちゃ。おかしく思われる。
　

　窓を開けた。
「エース？　久し振り！」
　ちゃんと、普通の声出せたか？　音沙汰なかった旧友と思いがけず再会した男として、適切か？　震えてない？

　窓の下に隠れている足は、みっともなく震えている。
　

→3　

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