『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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——グロテスクだな。
思った事を直ぐ口に出さないだけの分別は持ち合わせているが、思う事は自由な筈だ。
——悪趣味な店。
耳の標本専門の骨董屋、なのだそうだ。店の四辺はあらかた埃を被っており、通路には黒光りしたラインが走っている。骨董に興味を持って入店した客も、耳の標本を手に取る気にはならず、さりとて耳の標本しかないということもあるまい、と期待を持って奥へ進むがやはりそれ以外のものは置いていないので結果何も手に取らず、ぐるりと店内を周回してそのまま出て行くのだろう。
春島の、まもなく早春を迎える頃で、雲ひとつなく晴れた真昼間、外はのどかな陽光にあふれているというのに、店内は薄暗く、どことなく重苦しい。
片手に乗るサイズの木箱に詰められた白い真綿、その中央に鎮座する、耳。耳なんて、集音する為の器官だ、誰のものも大差ないだろうと思いきや、それだけが並ぶのを見ると、個性に富んでいるのだとわかる。小さいもの、大きいもの、上部の尖ったもの、中央が張り出したもの、耳たぶは肉厚なものから酷薄なものまで。
「これ全部、爺さんが作ってんのか」
一段と暗い店の奥で背中を丸めている店主と思しき爺さんに問う。
「まさか。わしは商売人じゃよ」
「商売になるか?」
持ち合わせの分別は完璧ではない。爺さんは肩をすくめて苦笑いをするだけだった。
「これって、作り物、だよなあ?」
「どれも素晴らしい『作品』じゃろ?」
意味ありげに答えた爺さんは、とても人相の悪い笑顔だった。
まさかこれ全部、かつては生きていた人間のものなのか。まさか生きたまま耳を削ぐのではなかろうが、という事は、死体から削いでくるのか。
作品、と呼ばれたものを、やはり手に取る気にはならず、じっと見る。誰かの耳、だったもの。そこかしこで、己の死後、かつて生きていた世界の音を、止むを得ず黙って聞き耳を立てている。の、か?
店の中央には、ガラスのショーケースが鎮座している。特に高価なものが飾ってあるようだ。そこに、見覚えのあるような形の耳があった。左耳。耳たぶに、三つ、穴の空いていた形跡がある。
「なあ、これ、」
喉はひりついて、声が掠れた。爺さんは一層悪い顔で笑った。
「かつて『海賊狩り』と呼ばれた男の耳でな」
いつのまにか隣に立っていた爺さんは、白い布切れでショーケースを撫でた。
「その男の耳には、金で出来た耳飾りが三本、ぶら下がってたって話じゃが」
ガラスに息を吹きかけ、布切れでこする。
「海の男、って事じゃろう。どこかに漂流しておっ死んじまった時、葬式をあげて貰う為に、金の装飾品を身に付けとくものらしいからの。『作品』になった時には、既に、穴だけじゃったんだと」
俺を見上げた爺さんの瞳は、ほの白く濁っていた。
「あんた、知ってるかい? 海賊狩りの、名はなんて言うんだったか…」
三本の金が暴れて音を立てるのを、聞くのが好きだった。俺の薄っぺらい耳は、それをよくよく集音した。あんまり遠くじゃ聞こえない。ささやかな音だ。それが、聞こえる距離にいた。
認めたくはなかったが、今にして思えば、あれは愛と呼ばれるものだったのだろう。欲をぶつけて、我を張って。そうして三本の金が立てる音は、たしかに俺を満たしていた。音を立てた本人も、きっと。
「さあ、知らねえな」
懐から煙草を出して咥える。
「店内は禁煙じゃよ」
「ああ、邪魔したな」
ショーケースに背を向け、店を出る。太陽が眩しい。目を瞑る。
聞き慣れた、少し重たい足音が近づく。それに紛れて小さく聞こえる、三本の金。
「こんなとこで、何やってんだ」
「お前こそ、また迷子か」
「迷ってねえ」
「へえへえ、どこへ行くおつもりで? 大剣豪」
口を噤んだ顔は、怒りと照れがほんの少し、頰に浮かんでいるだろう。耳飾りを鳴らしてやったら、どんな顔に変わるだろう。
愛しい男の顔を、拝んでやろうと目を開けた。
20181121,20191129
utaeさんは雲ひとつない晴れの2月の正午、耳の標本ばかり売る骨董屋でかつてきちんと愛のことを知っていたという話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943
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