『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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久しぶりに上陸したのどかな島で、散歩をしていた。ちょっと一回りのつもりが、いくら歩いても船に帰りつかない。目に痛かった夕陽もとっくに形を潜め、代わりに浮かび出た月は丸く、見る間に大きくなっていった。
これは晩飯を食いっぱぐれるのでは、と思った途端に腹が鳴り、思わず月を仰ぎ見る。コックの頭部に似ていると思う。丸みと色が、そっくりだ。そう思えば一層腹が減った。
再び鳴ろうとする腹に目をやる途中、月に似た丸みと色が目に入った。コックだ。大きな荷物を背負い、酒樽を肩に乗せている。もう一方の手は煙草を挟み、唇への抜き差しに余念がない。長大な煙が広がって消えたところで、目があった。ぱちくりとするから、声を掛けた。
「お前何やってんだこんなところで」
「ご覧の通り買い出しの帰りだ。お前こそ、こんな時間からどこ行くんだよ」
「散歩の帰りだ」
「帰りなら方向が逆だ」
そんなわけあるか、と思ったが声には出さない。なぜかコックと歩くと目的地までが早いのは何度か経験している。
「ついてこい」
言うと同時に酒樽を投げてきやがったから、仕方なく受け止めて担ぎ、ついて行ってやる。計らずも二人きりになってしまった。月に似たものから煙が立ち上るのをぼんやり眺めて歩く。
「稲作が盛んな島なんだな。お前、米の酒も好きだろ」
いつのまにか畦道を歩いていた。田んぼの真ん中を走るでこぼことした、取り残されたような一本道。両脇の植えられて間もない稲が風にそよぎ、水田に月影がちらちらとしている。空は一層暗くなったが、満月が大きく足元を照らして、歩くのに不自由はない。
「好きだ」
簡潔に答えると、コックの顔色がおかしくなったように見えた。月影は何でも青白く見せる。それを勘案しても、赤みが強いように思う。
「ひょっとして、熱でもあんのか」
「いや、ああ、うん、まあ、…風邪を、こじらせちまって」
珍しくも言い淀むコックに、確信めいたものを感じた。
「風邪なんてひいたことないんだろ?」
「風邪、っつーか、風邪みたいなもん、っつーか。命に別条はなくても、鬱陶しい、やつ」
「鬱陶しいのか」
「自分が自分でなくなるみたいで、な」
「命に別条、あるんじゃねえのか、それ」
「かも、な。風邪は万病の元、とか言うし」
確信は深まった。
俺はその『風邪』の正体を知っている。なにせ俺もこじらせて、治らない。
恋、ってんだ。知ってるか、お前。お前、俺に恋してんだよ。俺はお前に。
そう言ってやったら、治るんだろうか。お前も、俺も。治るどころか、更にこじらせて命を脅かすことになるんじゃないのか。
その答えがまだ、出せずにただ歩いている。答えが出るまで、月は足元を照らしていてくれるだろうか。
20190820
utaeさんはとても大きな満月の夜、とりのこされたようなあぜ道でこじらせてしまって治らない風邪についての話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943
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