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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*現代パラレル『春の珍事』 1 2 3 4 5 続き

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 終電の、一本前の電車に乗った。


  —— 第七夜 ——


 15分早いだけで、人はいつもの三割増だ。それでも角が見える頃には、いつもの通り、俺一人になった。
 いつもより、15分早い。…居ないよな?
 俺が部屋に入った後、いつもの時間にそこに来て、俺がいつも通り掛かる時間を過ぎてもそこを通らないと、あいつはいつ気付くだろう。どのタイミングで、今日はもう通らないと諦めるだろうか。
 おかしい、と思うだろうか。俺の身に何かあったかと、心配したりするだろうか。
 いや、変質者に遭遇するという被害に遭っているのだけれど、ここ一週間。
 俺が通らなかったら、がっかりするのかな。
 何をきっかけに、諦めて帰るだろう。

 なんだかいつもより、歩くスピードが遅くなっている気がする。折角、たとえ15分だろうと早く帰宅出来るってのに。俺って馬鹿。
 そう思いながら角を曲がると、いつもの街灯の下に男は居なかった。

 そうだよな。

 スコンと胸を通り抜けた風に、自嘲する。歩くスピードを上げる。と、俺の住むアパートから、誰かが出て来た。
 誰か、って、あいつだ。スプリングコートに肌色の脛。左手に握りしめてるのは、例の腹巻。今日もどこにしようか思い付かなかったんだな。俯いて足早に街灯の下に向かっている。

 …ちょっと待て。どこから出て来たよ?俺のアパート?
 どういう事だ。

 思わず立ち止まると、男は顔を上げた。
 俺と目が合い、ビクンと体を硬直させ立ち止まる。
「あ……」
 ふるりと体を震わせて、男は回れ右で猛ダッシュした。今出て来たばかりのアパートに入る。
 男のコートが翻り、何かが、道に落ちた。
 露出狂の変質者が俺の住むアパートの敷地から出て来て、入って行った。これは、どういう事だ?
「おいっ……!」
 や、呼び止めてどうする。
 返事の無い代わりに、ドアが勢いよく閉められた様な音がした。
 咄嗟に追いかけられなかった事に舌打ちをして、心を落ち着けながら、アパートの入口まで歩く。
 ちらり、と覗くが男は居ない。
 階段は鉄製で、駆け上れば音がする筈だ、裸足でもスニーカーでもない、あのビジネスシューズなら猶の事。けれどそんな音はしなかった。
 アパートの敷地は袋小路だ。隣とは金網フェンスで仕切られていて、それをよじ登ったら当然するだろう物音も、しなかった。
 出入口はここ一つ。
 男は、このアパートの、敷地内に居る。一階の、いずれかの部屋に?
 入口に落ちた何か、を拾う。
 昨夜男が「要る」と言った、腹巻だった。

 一階に部屋は五つ。手前の部屋からドアの前に立ち、住人を思い浮かべる。
 一号室は、小さなレディとそのお母さん。大きくなったらお嫁さんになってくれるって言ったけど、最近翻意を告げられた。小学校で運命の恋人に出会ったらしい。お父さん候補にしてくれても良いよと言ったら丁重に断られ、失意に沈んだ記憶も新しい。
 二号室は、ぴんしゃんとした婆さん。一度引っ繰り返っているのを助けてやって以来、時々おかず持参で様子を見に行く。せめて30歳若かったらお嫁に行ってあげたのに、と言ってくれるが、50年前ならなぁ、というのが正直なところ。
 三号室は、苦学生。煮物を持って婆さんを訪ねた折に、留守だったので代わりにやったら、懐かれた。
 四号室は、フリーター。煮物を持って以下同文。
 五号室、俺の部屋の真下、は、ちょっと前まで空室で、…今は?
 そういや最近下階から物音がする様になった。
 この部屋の、新しい住人が…?

 灯りはついていない。物音もしない。けれど、確かに人の気配が、する。
 このドアの向こうに、露出狂の変質者が、居る?

 ドアを叩こうかと拳を握り、幾らなんでも日付を跨いだこの時間じゃ非常識か、と思い直し拳を下ろす。そりゃ相手は変質者だけど、でも、本当にあいつがここに居ると決定した訳でもない。状況証拠からの推測でしかない。
 恐らく間違いないんだろうけど。でも。大体、ドアを叩いてあいつが出て来たら、どうするつもりだ。

 拾ってしまった腹巻を見る。
 大事な物を落として消えるなんて、シンデレラかなにかのつもりかよ。

 俺がドアの向こうの気配を感じている様に、あいつも、ドアの外に居る俺の気配を探っているだろうか。俺がここを離れて部屋に戻ったら、大事な腹巻の紛失に気付いて、探しに出るだろうか。そして落とした筈の場所に腹巻が落ちてない事に気付いて、どうするだろう。
 あいつ、俺の部屋知ってんのかな。取り戻しに来たりするだろうか。

 手の中の腹巻を、再び見る。輪っかに手を入れて、広げてみる。みょーん、と伸びる。すっげー伸びる。なんかもう全てがアホらしくてどうでも良い様な気分になる程伸びる。
 俺は両手を広げたり縮めたりして、腹巻をみょーんみょーんと伸ばし縮みさせながら階段を上った。この時間階段を上る時は極力音を立てない様に気をつけているけど、あいつは俺が階段を上っている事に気付いてるだろうか。みょーんみょーん。腹巻が脱力を誘う。
 この腹巻、どうしてくれようか。
 
7 

20140509,0511,0513,0514
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