書き出しと終わり #4 2019/05/05__00:00

utaeさんには「今の状況を冷静に考えてみよう」で始まり、「君がいないと息もできない」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。 #書き出しと終わり https://shindanmaker.com/801664

---

「今の状況を冷静に考えてみよう」
　俺は努めて冷静な声を出した。そう、今の状況を、だ。とても冷静な声を出せる状況ではないにも拘わらず、だ。
　ゾロが俺を抱き締めている。それも、絞め殺さんばかりの熱烈さで、だ。

　久し振りの再会だった。付け髭にスーツ姿で、ここまで長くなるとは思わずに別れて以来だから、どのくらい経ったのだろう。ちょっと色々ありすぎて、もう何年も会っていなかった気さえするけれども。実際にはひと月くらいのものだろうか。様相はだいぶ変わって、今はお互い着流しにちょんまげ姿だ。変わらないのはこいつの厚かましさとか、熱、とか。

　こいつの、熱、を、知らないわけじゃない。船の上では、人目を避けて夜の物陰で抱き合ったものだ。人恋しさを埋める、刹那の熱。その場限りの、恋。物陰に引きずりこむその手はいつだって強引で身勝手で、しかしそのタイミングは計ったようにぴったりと、俺の心に沿っていた。
　それにしたって、真昼間の往来だ。二度と会うことのないだろうこの国の住人がほとんどだが（そしてそのほとんどが、ぎょ、とした顔でこちらを伺っている）、これからずっと船を同じくするクルーも居るというのに、だ。ちょっと待って、あいつら何で驚愕してないの。

「うるせえよ、何が冷静だ、てめェ、ちょっと目ェ離した隙に、フラフラフラフラ…、捕まえとかなきゃまたどっか行っちまう気だろ、ふざけんなよ、もう離してやらねえからな」

　ゾロは一息で言って、頰をなすりつけてきた。恫喝まがいの文言に反し、さも愛しいと言わんばかりの態度で。
「まさかお前、俺がいなくて、寂しかった、とか？」
　茶化して終われるのなら、そうしたかった。遠巻きに見るクルーの目が慈愛を帯び始めていた。ねえ、何でお前ら、ゾロのこれ、当然、みたいな顔してるんだよ。

「ちぃっと先に行ってるだけだ、ゾウに着いたらお前が待ってる、やっとお前の飯だ、って我慢してたのに、着いたら居ねえとか、その上結婚するだのなんだの、お前ふざけんなよ、寂しいとかそんな可愛いもんじゃねえ、早く食わせろ」

　ゾロはやはり一息で言った。怒気を帯びていた声に懇願の色が混じる。つまりこいつは、俺の飯が食いたくて仕方ないと？
　そりゃそうだろう、俺は一流コックだ、俺の作る飯は美味い。俺の飯が食えねえのは痛手だよなァ、と少々気分が良くなったところで、尻に何かが這っているのに気づいた。揉まれている。当然、ゾロの手だ。
「おい、」
　抗議の声を上げれば、止めるどころか引き寄せられて、薄い布っきれを押し上げる熱の塊、人前に出すべきでない物、の存在を意識させられる。もしや、食わせろ、とは飯の話ではなくて？　お前ふざけんなよ、真昼間の往来だぞ？
　だいたい、そんな熱烈に求められる理由がわからない。俺たちの、恋、は、単なる熱の発散じゃなかったか？　言うなれば、相手が誰であるかはさほど重要でもない、たまたまタイミングと利害が一致したってだけの、遊びのようなもの、では？

　次の一言で、俺は強く絶望した。諦観と言ってもいい。これはもう、逃げられるものではない。俺は認めなきゃならねえ。ゾロにとって俺との、恋、が遊びなんかではないってことを。ゾロは抱擁を強め、高らかに宣言したのだ。
「お前がいないと息もできない」

---

20190310,0425,0427

＊お題お借りしました。
　できなくて1332字になりました。

　実際、何日間の別離なんだろうか。まだ続くのかな…？そろそろだよな…？
　絶対こうじゃないのは勿論わかってるけれども、実際違うのを目の当たりにしたら出すの躊躇するので、今のうちに…