『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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「サンジ、明日会えないかな」
久し振りにチョッパーから連絡があった。電話口の声は、少し硬い。何か相談事でもあるのだろうか。
「ああ、大丈夫だ。どうかしたのか」
「明日、ゾロの命日だから。一緒にお墓参り、行かない?」
「…お前、毎年行ってるの」
大丈夫と言ってしまった手前、即座に行かないとも言えなくて、少し口籠もった。
「行ける時だけね。サンジは、一回も行ってないだろ?」
「別に、行く理由もねえし」
行かない理由もまた、ないのだけれど。
ゾロの眠る墓は、郊外にある。駅からはほど近いが、電車の数は都会程多くはない。うちの最寄駅から何時何分発のどこ行きに乗って何駅で降りろと指示を出される。
「改札は一つだから、そこで待ち合わせよう。おれもナントカ駅でその電車に乗り換えだから、電車の中で会うかもな」
エッエッと嬉しそうに笑うのに、すっかり計画的犯行だな、と心の中で悪態をつきながらメモを取る。
行く理由も行かない理由もないまま、あいつに会わなくなって数年。宙ぶらりんだった。それが明日で終わる。気は進まない。が、電車に乗ってしまえば、自動的に着く。どうせなら、前向きな気分で臨もう。チョッパーに会うのも久し振りだし。あの頃好んで身に付けていたネクタイでも締めて行こうか。
クローゼットをひっくり返してネクタイを手に取ると、その手があいつのものに見えた。幻覚だ。何度、引っ張られたのだったか。あいつはどうしてその手を離したんだ。どうせなら、最後まで引っ張って行けば良かったものを。墓の中から飛び出たあいつの手が俺の首に掛かったネクタイを掴み、墓の中へ引きずり込まれる幻覚まで見えた。どうかしている。たかが墓参りに行くだけで。
振り切る様に、クローゼットの扉を閉じた。明日は、数ヶ月前に買って最近好んで締めているネクタイにしよう。
昨日指定された電車に乗る。電車の中で、チョッパーとは出会わなかった。混雑と言う程ではないが、立っている人もいるくらいだから当然かも知れない。聞きなれない駅で降りて、ホームから改札階への階段を下りる間も、チョッパーの姿は見えなかった。
改札を抜けて、改札機を見渡せる位置で目を凝らす。降車した客は全て改札を出てしまったのだろう、いっとき賑わった数台の改札機も、もうひっそりとして誰も通らない。さてはチョッパーのやつ、寝坊でもして乗り損ねたな。
手持ち無沙汰で胸ポケットから煙草を出そうとすると、目の前に、構内禁煙の表示と喫煙所の案内板が見えた。次の電車が到着するのは15分後だ、それまでに戻れば良いだろう、と喫煙所へ移動する。行きしな、小さな花屋が目に入った。
そういや手ぶらで来ちまった。花を喜ぶ性質じゃねえよなあ。墓の下で眠るあいつの、花束を差し出されて困惑する表情が目に浮かぶ。酒の方が喜ぶだろうけど、まあこういうのは形式だ。酒屋は見当たらねえし。
行き先を変更して、花屋へ向かう。あらかじめ束にしてある仏花をひと束買った。あいつに花束を贈る日が来るとは、あの頃思いもしなかった。それが手向けの花なら、なおさら。
白い薄紙で包まれた花を手に、喫煙所へ向かう。ゆっくりと一本吸って、次の電車が到着する音で改札前に戻った。
息急き切って改札を飛び出したチョッパーは、まっすぐ俺の元に走って来た。「サンジ、ごめん!」と謝るのと盛大に腹を鳴らすのが同時だった。
「飯、食ってねえのか?」
「うん、寝坊しちゃって、遅刻しそうだったから食べないで出て来ちゃったんだ」
「電話一本入れてくれれば、気にしねえで良いのに」
「そこまで気が回らなかったんだよ。結局待たせちゃって……ごめんな」
すまなそうにするチョッパーを連れて、駅前のささやかな商店街に進む。
「墓参りの前に、腹ごしらえにしよう」
さびれた中華料理店が食欲を刺激する匂いを漂わせていた。チョッパーは鼻をひくつかせている。
「ここにしようか」
「お寺に行く前に、こういう料理食べるのって、良いのかな」
「構わねえだろ」
昔から、昔のまま営んでいるような店内で、レバニラ炒めと餃子とビールを注文した。チョッパーは回鍋肉定食だ。
すぐに出された小瓶から手酌でコップに注ぐと、チョッパーは咎める口調ではなく、言った。
「昼間っから?」
「これっぽっち、良いだろ?」
チョッパーは思うところのある様な顔でこわごわと質問をした。
「酔わなきゃ、無理?」
俺が、あいつの墓参りするのに、景気付けが必要だって?
「ばっか、これっぽっちで酔う程弱くねえよ? ほれ、あいつを偲んで、さ」
「そっか」
ぽつりと零した返事が納得ではない事は、分かったが知らないふりをした。
思ったより早く運ばれた料理をつまんでいると、地面がぐらりと揺れた。これっぽっちで、まさか酔ったのか? テーブルに手をついて周りを見ると、チョッパーもきょろきょろとしている。
「地震?」
コップの中身が波打っている。
「そうみてえだな」
そりゃそうだ、まさかこれっぽっちじゃ、酔わねえよ。
ほんの数瞬、店内を揺らして、ささやかな地震はおさまった。昼間からの飲酒を咎められたか笑われたか、したのかも知れない。テーブルに投げ出した仏花が、余韻でもって揺れている。
天井付近の小さなテレビに、地震速報のテロップが出た。月がどうのこうのといった番組の最中だったようで、画面には満月が大きく映っていた。
「月にも地震があるんだってね」
味噌だれで口元を汚したチョッパーが思い出したように言った。
「地球じゃねえのに?」
「じゃあ、月震?」
言って、チョッパーは白米を勢いよく頬張り、飲み込んだ。
「地震の地は、地球の地なの?」
「地面の地、か」
頓珍漢な会話だな。可笑しくなって、けらけらと笑った。やはり少し酔っているのかも知れなかった。
20190118,0130,0202
utaeさんは手向けの花束を用意した日、さびれた中華料理店で月にも地震があるという話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943
*どう考えても現代日本が舞台だけど、するとチョッパーをチョッパーのままで存在させられないので、どうしよう?と困った結果、設定はあやふやでいいか、となりました。諸々適当。
久々の更新で、ゾロは既に死んでるし、ゾロサンかも怪しくて申し訳ない。
同時に死ぬのでなければ、いずれ、どちらかが相手への手向けの花を用意する未来がある、のかも知れない、と思って少ししんみりしました。どんな気持ちで用意するんだろうか。
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