新聞屋さん番外編『暫しの別れ』 2013/01/06__03:02

2012年8月26日から12月25日まで連載していた『新聞屋さん』の番外編
本編はこちらにまとめてあります。

最終回直後

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　時計が、午後五時を告げた。
　俺の頭を肩口にそっと押し付けていたゾロが、その手を離した。俺も、ゾロの腰に回した腕を解かなきゃならねえかな。俺は頭を上げて、ゾロの顔を見た。ゾロはちょっと頬を赤くしていて、ちょっと困った顔をした。
「販売店行って、挨拶して来ねえと」
「そっか」
　俺たちは、体を離した。
「じゃあ…」
「うん」
　ゾロが、荷物を持って出て行こうとする。

　え、ひょっとして、このままさようなら？　それはないんじゃないの？

「今日はこれから、どうすんの？」
　玄関まで着いて行って、訊いた。ゾロは靴を履きながら答える。
「挨拶したら、部屋引き払って、所長んとこで泊めてもらって」
「うん」
「明日、朝一で、帰る」
　屈めていた背を伸ばしてこちらを見たゾロに、言った。
「そっか。じゃあ、これで、お別れ？」

　ゾロは、はっとした顔をした。
「携帯の番号とか、メアドとか、交換しねえ？」
「する！」
　勢い込んだ返事に、思わず苦笑する。
　ゾロは、一つの事に目がいったら、他の事には気が回らないらしい。
　あたふたと携帯電話を取り出し、何やら操作して、手を止めて、俺に手渡した。
「どうやんのか、分かんねえ。お前、知ってる？」
　自慢じゃないが、調理器具以外の家電的なモノは上手く使えたためしが無い。

「知らねえよ」
　と言いながら、俺はゾロの携帯に俺の番号を打ち込んだ。通話ボタンを押すと、遅れて俺の携帯が鳴った。俺はゾロの番号が非通知になっていない事を確認すると、ゾロの携帯から俺の携帯にメールを送った。これもちゃんと届いた。
「これが俺の番号と、メアドな？」
　ゾロに携帯電話を返すと、ゾロは、画面を見て、にっ、と笑った。

「いつ、岡山に来るんだ？」
「多分、秋になったら。決まったら、真っ先に連絡するから」
「ああ。待ってる」
「待ってねえで、お前からも連絡寄越せ」
　一瞬ぽかんとしたゾロは、嬉しそうに笑った。

　笑顔で別れた。
　突然じゃなくて、苦しくない、再会の待つ別離。
　幸福を伴う、暫しの別れ。

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20130104,0105