新聞屋さん番外編『メール』 2013/02/13__03:02

2012年8月26日から12月25日まで連載していた『新聞屋さん』の番外編
本編はこちらにまとめてあります。

1月6日付『暫しの別れ』翌日以降

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　ゾロから送られた初めてのメールは、アドレスの交換をして別れた次の日、午前十時に届いた。
　丁度休憩に入った所で、そのタイミングの良さに思わず笑った。
　タイトルは『無事帰宅』、本文は空白だった。
　初めて携帯電話を手にしたマダムだって、もうちっとましなメールを打つんじゃなかろうか。
　これまでメールを送り合う友達とか、居なかったんだろうか。…彼女とか。
　少し気の毒に思ったり、少し嬉しく思ったり、俺は久々に『恋』をしている気分を味わった。まあ、してるんだけども。

　俺は『今週のスペシャルケーキ』を写真に撮り、メールに添付して送った。
　タイトルは『お疲れ様』、本文は『無事でなにより。写真は『今週のスペシャルケーキ』。レアチーズケーキに挟まれたオレンジのムースが爽やかな一品。』とした。
　返信が届いたのは、約一時間後。俺がそれを目にしたのはその四時間後。
　タイトルは『Re:お疲れ様』、本文は『美味そう。食いたい。』だった。
　ひょっとしたら一時間、携帯電話と格闘してくれたんだろうか。ひょっとしたら返信を待っているだろうか。とは言っても、四時間も後になって返す様な内容でもない。初日からがっつく様なのもみっともないか、と迷った末、そっと携帯を閉じた。


　次の日、朝、開店時間にメールが届いた。
　タイトル『無題』、本文『見つけた』、添付写真は、パティスリーバラティエ岡山支店の外観。
　渡したショップカードの住所を見て、わざわざ行ってくれたのか。
『昨日のケーキ、そっちでも売ってるぞ』
　と送れば、
『お前が作ったのを食べたい』
　と。
　朝から嬉しくて、気合いが入る。

　それから、毎日某かのメールが送られてくる。
　天気がどうとか、何を食べたとか、道場でどうしたとか。
　いずれも一言二言の、短く、素っ気ないメール。
　俺は毎日、ケーキの写真を送る。添える本文は、ケーキの説明。こちらも相当素っ気ない。返信があるとすれば、美味そうだとか、食いたいだとか、素っ気なくも俺を嬉しくさせる。返信までの時間はまちまち。五分とかからない時もあれば（大進歩だ）、一向に返信の無い事も（それはお互い様）。

　メールのゾロ用フォルダが、送信受信それぞれ100通を越えた頃。
　一番送りたかったメールを送った。
『次の火曜日、最終ののぞみでそっちに行く。』
　返信は、間髪入れずに届いた。
『待ってる。』
　たったそれだけの本文を目に焼き付けている間に、次のメールが届いた。
『早く会いたい。』

　返信は勿論、『俺も。』
　ゾロが俺と同じくらい、嬉しく思っていると良い。

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20130207,0210,0212