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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*未来捏造

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 *****
      


 いつだったか、ゾロが船縁で、夕日を眺めていた事があった。
「どうしたよ? 昼寝も鍛錬もしてねぇなんて、珍しいじゃねぇか」
 夕食の支度の合間に一服しようと甲板に出た俺は、ゾロのその珍しい姿に声を掛けた。
「ああ。故郷の夕日はどうだったかな、と思って」
「ホームシックかよ」
「そんなんじゃねぇよ」
 珍しく、喧嘩腰にはならなかった。
 真っ赤な太陽が大きく燃えていて、辺り一面、真っ赤だった。ゾロの鮮やかな緑髪ですら、赤かった。
「故郷出て、何年になる?」
「あれは、16になる歳だったから、もう4年になるか。お前は? ノースの生まれだっつったか?」
「俺には故郷なんてもんはねぇよ。強いて言うならジジィんとこだ」
 二人、静かに、目も会わさず、落ちる夕日だけを見ていた。
「いつか…」
「…ん?」
「…いや、そん時、言う」
「何だよ、それ」
 空が紫になって、煙草が一本灰になった。
 もう口を開くつもりのなさそうなゾロを置いて、キッチンに戻った。


 海賊王の船は、グランドラインを一旦出て、イーストブルーを凱旋している。
 海賊王は、幼い頃にしたという「宝払い」の約束をやっと果たした。笑顔で涙を浮かべたマキノさんは大変美しかった。
 航海士は、姉との再会に泣いていた。ノジコさんは相変わらずお美しかった。
 狙撃手は、かつての舎弟の成長に目を細め、想うだけだったカヤさんと想いを通じ合わせたようだ。羨ましい奴め。
 そして。
 優秀な航海士は誰もその場所を知らなかった大剣豪の故郷に、無事、船を進めた。

「付き合え」
 先頃大剣豪の称号を手に入れたゾロは、俺の腕を引いた。
「何処行くんだよ」
「くいなの墓だ」
「くいな?」
「死んだ幼馴染だ。約束を果たしたと、報告に行く」
「ああ、和道一文字の」
 詳しく聞いた事は無い。ただ、大事な約束だという事だけは、知っている。だから、捨てられない野望なのだと。命よりも大事な。

「この道であってんのかよ?」
「…」
 昼食の後直ぐに歩き始めたのに、こんなに狭い村なのに、空が赤らんできてなお、辿り着かないというのはどういう事か。
「テメェの故郷だろ?」
「何年振りだと思ってる」
 何十年も何一つ変わっていない様な村じゃねぇか。余所者の俺ですら郷愁を誘われる様な。
 先程曲がって藪の中を彷徨う羽目になった辻を同じ方向に曲がろうとするので、腕を引いて逆に行った。
 石段を上りきると、視界が開けた。

「着いた」
 着いたじゃねぇよ。大剣豪になろうと、こいつの迷子は治らないままだ。世話の焼ける。
 綺麗に整えられているくいなちゃんのお墓には、まだ綺麗なままの花が手向けてある。俺も花を持ってくるべきだった。小さなレディのまま、ゾロの心に住み続ける彼女の為に。
「火、貸せ」
 ゾロが腹巻きから線香の束を取り出し、俺に突き出す。ライターで火を着けてやると、束を二振りして炎を収め、ゾロはそれを半分にして俺に差し出した。
「線香あげてやってくれ」
 墓前にしゃがみ込んだゾロに倣って、手を合わせる。

 ——くいなちゃん、こいつ、大剣豪になったよ。野望、叶えたんだ。こいつの事守ってくれて、ありがとうね。

 勿論会った事は無い。話に聞いた事も殆ど無い。彼女について知っている事は、何も無い。けれど、ゾロの事は知っている。彼女は、ゾロの一部だ。彼女が居なければ、ゾロはゾロたり得ない。

「くいな、」
 ゾロが墓前に語りかけたので、少し離れた所に居ようと思った。立ち上がり一歩踏み出した所で、ゾロに腕を掴まれた。
「お前も聞いてくれ」
「…良いのか?」
 ゾロは俺の問いに答えず、腕を掴んだまま再び語りだした。
「俺は、約束通り、世界一の剣豪になった」
 ゾロは、腰から和道一文字を引き抜くと、墓前に供えた。
「これは、お前に返す」
 返しちまうのか。それを呆然と見ていた俺に、ゾロは視線を合わせた。
「俺はこれからも、修羅の道を行く」
 そりゃそうだろう。今更、安穏とした日々を望むなんて、虫が良過ぎる。
「お前に、傍に居て欲しい」
 ゾロは、俺の目をじっと見たままだ。
「俺、に?」

 夕日が、赤く燃えている。
 唐突に、いつだったかの夕日を思い出した。夕日の中で「いつか言う」とゾロが口籠った日の事を。
「やっと、言えた」
 ゾロが、泣きそうな顔で微笑んでいる。
 ゾロの髪も顔も体も、くいなちゃんのお墓も和道一文字も、空も、遠くに見える海も、全部が赤く燃えていた。

「おう」
 空が紫になって、俺もやっと、言えた。



20120808,1010

 inspired by 氣志團『落陽』

(大変馬鹿馬鹿しいのですが、書きながら泣きました。)
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