『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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<承前>
声など掛けなければ良かった。顔は知っている、評判も。しかし名前までは分からない、そんな会社関係の男になど。そうすれば、アウティングに伴う困難や対応策に気掛かりを奪われる事も無かったし、——耳朶を掠めた唇の感触に囚われた週末を過ごす事も無かった。
あの後、改めて相手を探しに店へ戻る事も別の店へ行く事もしなかった。立ち尽くし体の冷えを自覚してやっと、過ちに気づいた。耳朶の感触が、悩ましかった。目に焼き付いた笑顔を裏切るその官能が。
週明け、どうするべきか週末だけで出せなかった善後策の断片を抱え、喫煙室の前をゆっくりと通る。あの男にもう一度会えば、どうするべきかもはっきりするかも知れない。上部がガラス張りのその部屋は時間帯によっては紫煙が文字通りスモークとなって視界不良だが、今は、空調が圧倒的な勝利を収めている。ガラスの向こう、一人きりで紫煙を吐くのは目的の男。どう転ぶにしてもお誂え向きだ。扉を静かに開け、染み付いた数種の煙草臭が入り交じる空気の中、男に近付く。一歩ごとに濃くなる、あの夜至近で嗅いだ香。
「こないだは、どうも」
コーヒーを脇に煙草を咥える男に声を掛けると、ちらと向けられた視線はあの夜とは違い、酷く冷たいものだった。
「誰だっけ、あんた」
嘯く様に鼻白むが、笑顔を貼付ける。ここへ来たのはこの男に会う為。その目的の一つを、取り敢えずクリアに。
「実は今抱えてる案件のクライアントがお固くてね。担当者の言動の端々にホモフォビアが見て取れる。こちらの担当者が“そう”だと知れるのは、少々厄介だろう?」
「口止めでもしに来た?」
「まあ、な」
男は口端を皮肉じみた角度で持ち上げ、煙草を指の股に挟んだ。
「おまけに、影響力あるもう一人の担当女史はどうやらこちらの担当者を性的にお気に召しているご様子だし?」
「お前、それ…」
唖然とする事ばかりだ。確かに、年増女の意味有り気な目配せをどのラインで躱しどう利用するかは目下の懸案事項だ。なぜこいつがそれを知っている?
男は巨大な灰皿の淵に煙草を軽く打ち付け、長くなっていた灰を落として言った。
「極めて個人的な事を、仕事に持ち込む気は無ェよ、俺は」
眉を顰めた俺に、小さく舞った灰が落ち着くのを待たず、男は言い換えた。
「お前の性的な嗜好について、吹聴して回る気は無ェ、って事。安心しな」
皮肉じみた表情は消え失せ、あの夜最後に見た笑顔の片鱗が見える。この言葉はきっと嘘ではない。
目的の一つは達せられた。では、もう一つの目的を。会ってみてはっきりした、もう一つの目的。
「名前を。未だ、聞いてなかった」
「知らなくて良いだろう?」
煙草を揉み消すと同時に呉れた視線は、店の外で俺の名を呼んで見せた、それ。そんな視線を呉れておいて、また名前も出てこない程度の顔見知りに戻れと?
「是非、知りてェな。もっと“極めて個人的な事”を含めて」
男の耳朶に顔を寄せ、唇の感触を返す。僅かに身を震わせた男に止めの視線を遣る。と。
「知ってるか?ここ、カメラで監視されてんぜ?」
男はくつくつと笑う。
「俺が黙ってたって、お前が騙しきったって、どこから何が漏れるかは、分かんねェぞ?」
男が視線を呉れた先を辿ると、天井の隅には確かに黒いカメラが吊られている。
「言ったろ?慎重にしろ、って。隠したい当の本人が会社でこんな事してちゃ、お話しにならねェよ」
男は僅か残っていたコーヒーを飲み干して、冷たく言った。
「俺まで巻き込むな」
手の甲で俺の頬を軽く叩き、男は喫煙室を出て行った。空になったまま残されたコーヒーの紙カップをぐしゃりと握り潰し屑籠に放り込む。ひやりとしていた男の皮膚の感触を思い出せば、頭に血が上った。
<つづく>
20141021,1022,1023,1103
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