情欲 2014/09/05__00:00

＊情（を）欲（する）

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　仰向けの俺に馬乗りになったコックの髪は、うねり乱れている。
　互いに身に着ける物は何も無く、纏うのは浮かぶ汗だけだ。
　普段スーツの下に押し込められた色欲を今、阻む物は何も無い。

　口の端から垂れた唾液を赤い舌先でちろりと舐める。
　半分伏せた瞼の下は焦点の定まらない瞳が悩ましげに流される。
　揺れる腰を掴めばしっかりとした骨と筋肉を包む肌がしっとりと掌に吸いつく。
　俺の肉欲を包む腸壁は蠕動し誘う。
　水分の多い卑猥な音と熱を帯びる荒い呼吸音に短く喘ぐ声が乗れば終わりは直ぐそこだ。

　意味のある言葉は交わさない。
　心裡を晒す真似はしない。
　情ではなく、欲を、交わす。
　それで過不足無いのだと、コックは笑う。
　俺は笑って同意する。

　俺は笑って、嘘を吐く。

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20140903,0904