浅はかな 2014/05/29__00:00

＊現代パラレル
『It's for you and me.』『It's for you and me. 2』の半年くらい前の話

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　二次会の清算が済み、三次会へ流れる相談をする者、帰ろうと駅へ向かう者、帰り難くて道端で喋る者、それぞれだがゾロは、大分酔っているサンジの肘を掴んで人気の無い方へと促した。
「お前、飲み過ぎだ」
　自販機で水を買って、サンジに突き出す。
「あー…さんきゅー…」
　大声ではしゃいだ所為で掠れたサンジの喉を、キャップを捻り開けて口に含んだ冷たい水が潤す。
「美味ェ…」
　更に喉を鳴らして三分の一程を一気に飲んだサンジは、キャップを嵌めるとボトルを首筋に当てた。
「冷てェ…、気持ちイ…」
　ガードレールに尻を乗せて背中を丸め、サンジは瞳を伏せている。ボトルに浮かんだ水滴が、サンジの首筋を濡らした。身動いだサンジの襟首に、水滴が吸い込まれていくのをゾロは見た。
　拭ってやりたい。
　ゾロは思って、自嘲する。
　そんなの、こいつは許さねェ。

「なんか今日はさー、気分よくて。もっと飲みてェなー」
　三次会組は既に、移動してしまっている。
「俺んち、来いよ」
　何気なく言うのはとても難しい事だった。だが、上手くやり果せたと思う。
「コンビニで酒でも買って、そしたら、そのまま寝ちまっても大丈夫だし」
　とても自然に、誘えたと思う。なのにサンジは、顔から表情を消した。
　一つ瞬きをしてゾロの顔をじっと見る。邪な何かが出てしまったのかと、ゾロが焦って口を開きかけた時、サンジは「うん」と小さく言った。
　それから、にへら、と常なら男になど微塵も見せない蕩けた笑顔で「飲み直しだ」と言った。ゾロは思わず唾を飲む。浅はかな期待が背筋を這う。しかし。
　サンジは先程の飲み会に参加していた女のそれぞれを褒め始めた。やれ笑顔が可愛いだの、胸が大きいだの。細やかな気遣いの出来る子だ、指先の動きが綺麗だった、仕草がどことなくセクシー、控えめなのに的確な発言。参加した女全員について、一通り褒め称える。
　ゾロはそれに曖昧な返事を、する事で、浅はかな期待と失望をごまかした。

　昼間は夏を思わせる陽光で汗ばみもするが、夜ともなれば吹く風も冷たい。酒で火照った顔も直ぐに鎮まる。
　ただ、隣にサンジが歩いている、行き先は自分の部屋、二人きり。但し恐らくサンジはその意味に気付いていない。そんな事柄が、ゾロの芯を火照らせていた。
　別に、部屋に連れ込んでどうこうしようと言うのではない。
　サンジに色目を使った、サンジが「胸が大きい」と讃えたあの女に、渡すのは嫌だった。サンジには迷惑だろうが、ゾロが嫌だったのだ。サンジ自身が色目を使われた事に気付かない程度にしか思っていない様な女に、掻っ攫われるのは御免だ。サンジは女相手なら、自身の気持ちなどそっちのけで掻っ攫われるのを厭わないだろう。そんなのは。

「なーお前どの子が好みだったー？」
　サンジの間の抜けた声でゾロは思考の沼から浮上した。
「別に…」
「なーんだよ、つまんねーのー」
　感情そのままを剥き出しにした声が、ゾロの耳を刺す。
「お前は、どの女が良いんだよ」
　ゾロの絞り出した声に、サンジは一瞬きょとんとした顔を向け、くすりと笑ってから言った。
「女の子はみんな素敵さー」
　ゾロは極力軽い声色で言った。
「つまんねー」
　半分は本音だ。ゾロは女じゃないから。半分は嘘だ。みんな素敵、なんて、誰も特別じゃない、って事。

　いつか、誰かがサンジの特別になってしまったら。
　すっぱりこの気持ちは棄てなくてはならない。
　それまでは、この気持ちのままで、良いだろうか。
　芯の火照りは、隠し通すから。

　ゾロのそんな思考は、全く浅はかとしか言えないものだった。

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20140503,0527

＊『昔日の恋』の二人かなぁ、とも思ったんですが。『It's for you and me.』の方が良い。