あなたが噛んだ 2 2013/10/31__00:00

＊10月16日付『あなたが噛んだ』ゾロ編

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　こいつの全てを喰らい尽くしてしまいたい。
　無論一度喰ってしまったら二度と喰えない訳だから、喰わない、本当には。
　ただもう離すつもりは無い。一生傍に置く、と、決めた。どうあっても離せない。

　指を、口に入れた。
　長い指が緩く曲がって口内に収まる。噛めば体が竦む。舐めれば体を捩る。俺のいちいちに反応を示すのを見るのは、愉快だ。
　ふと思い付いて、口内にある左手薬指の付け根を、強く噛んだ。


　聞くともなしに聞いた酒場の与太話。給料の三ヶ月分だとかプラチナだとか、その意味は分からなかったが、どうやら愛する二人は揃いの指輪を左手の薬指に嵌めるものらしい。
　愛する二人は。
　そんな文言が思い浮かぶ自分が、おかしい。毒されている。いっそ高笑いをしたい気分だ。

　強く噛む。がじがじと、一周する様に噛む。
　以前、腰にじゃらじゃらぶら下げてるわりにはピアスだのリングだのしねぇんだな、と言ったら、邪魔だからな、と返された。食材に落ちる様な事があっちゃならねぇよ、第一不衛生だ、と。お前はジジシャツ腹巻きのくせに小洒落たピアスなんてしやがって、なんて罵倒も忘れずに。


　見事にリング状についた歯形。赤くついた印は、この後青痣と化すだろう。
　痛みにか、うー、だの、あー、だの唸っていたのも、とろとろと瞼が落ちて今は、すー、と寝息を立てている。

　愛する二人だからな。揃いの指輪を嵌めなきゃならねぇ。

　自分の左手薬指を口に入れる。強く噛む。結構痛ェ。こいつよくこんなんで眠れたな。それほど疲れたか。疲れさせたのが俺だと思うと、悪い気はしない。
　しっかりリング状に歯形をつける。揃いの、印。


　ナミに訊かれた。
「偶然か、運命か」と。
　偶然な訳あるか。運命？そんなもん知らねェ。
「必然だ」
　答えてやると、笑われた。おまけにサンジに蹴られた。畜生。

　ナミが視界から消えると、サンジは左手薬指の青痣を見た。
「指輪は、邪魔だろ」
　言えば、俺の左手薬指の青痣を見る。
「お前、自分で噛んだの」
　首肯すれば、サンジは俺の左手薬指を口に入れ、根元に歯を立てた。
「何してんだ」
　質問に答えず歯形を一周させたサンジは、やっと口から指を出して言った。
「リングっつーのは、贈り合うもんなんだよ」

「エンゲージなら、尚更」

　愛する二人だからな。

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20131020,1030

＊魔獣且つ乙女なゾロ。なにそれ。
＊エンゲージとマリッジが混同しているようですけれども。結婚というよりは約束でしょうから。