さみしいなにかをかく #14 2018/09/01__00:00

お題をお借りしました。海賊ゾロサン（匂わせすらないです）『百花蜜』

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　大潮なので、出航を延ばした。ナミさんが居て越えられない波ではないが、先を急ぐ旅でなし、少しのんびりするのも良かろうという判断だ。というわけで、急に与えらえた休暇を持て余している。仕事など、いくらでも捻出出来るが、例えば保存食の作製など、やろうと思えばいくらでも。だが「せっかくだもの、のんびり陸地を散歩するなんて、寄港中でなければ出来ないわよ」とロビンちゃんにお勧めされては断る理由など一つもない。
　てっきりデートのお誘いかと思ったら、それは笑顔で躱されてしまった。仕方がないので、一人、島をぶらついている。二度と訪れる機会はないのかも知れない、なにせグランドラインの航海は独特で過酷だ。そう思えば、なんてことない景色も少しは輝いて見えないこともない。
「ほんっと、なんてことない…」
　思わず独り言つ。これといった大きな特徴のない、人々が生活を営む為の島、だった。
　しばらく歩き、食料調達では足を踏み入れる必要のない住宅街に迷い込んだ。間口は3mくらいか、大人二人に通せんぼされたら諦めざるを得ないような。奥行きもきっとそのくらい。そんな小さな区画に、小さな家が立ち並んでいる。ここらの人々は、こじんまりとした小さな家で、愛する家族と幸せに暮らしているのだろう。様々な生活が並んでいる。
　ところどころ歯抜けのように空き地があり、そのいくつかは平らに均され、いくつかには建物の土台が出来ており、いくつかは、草がぼうぼうと生えている。かつて生活があった場所、これからそれを作る場所。そこで鍋を振る自分をちょっと想像してみたが、あんまりしっくりこねえなあ。

　陸地のしっかりとした歩き心地に、少々居心地が悪くなってきた頃、草がぼうぼうの空き地に人影を見た。子供だ。
「何してるんだ？」
　声を掛けると、草に埋もれていた子供が一人、草を掻き分け顔を出した。
「へへ…」
　口の周りを何かでベトベトにして、照れ笑いを浮かべている。口の周りから微かに漂う香りの正体を探ろうと鼻を近づけると、子供は「ひゃっかみつ」と言った。
「ひゃっかみつ？」
「うん、えっとね、甘いの」
「ああ、蜜か。ひゃっか…ってのは、何だ？」
「えとね、お花。山の上でいっぱい咲いてる」
「ああ、百花。お家の人は蜂蜜作ってるのか」
「ん。蜜蜂が集めてきたのを、父ちゃんが集めて母ちゃんが売る」
　子供は首肯くと、口の周りをべろりと舐めた。
「売りもん勝手に食って、叱られねえか」
「大丈夫、これはおれのお駄賃。お兄ちゃん、島の人じゃないな？」
「ああ、明日にでも出航だ」
「じゃあこれをやる」
　子供は小さな瓶を一つ、差し出した。
「船旅のお供に最適だ、気に入ったら港町の蜂蜜屋で大瓶を買ってくれ」
　子供は鹿爪らしい口上を述べ、また一つ、口の周りを舐めた。
「宣伝がお前の仕事か」
「そうだ。ちなみに母ちゃんは町一番の美人だぞ」
「樽で買っちまうかも」
「優秀な宣伝マンにはもっとお駄賃あげた方が良いって言っといて！」
　晴れやかな笑顔で、小さな宣伝マンは草の中に消えた。
「いやいやこんなところでサボってて、優秀もクソもねえだろ」
　苦笑しながら、渡された小瓶の蓋を捻る。黄金色のとろりとした表面が、波打った。掌を窪ませ少し垂らして舌で舐め取る。何の花かは分からないが、雑味のない柔らかな甘味だ。これは、町一番の美人の顔を拝みに行かなければ。

　流石に樽では売っていなかったので、大瓶を二つ、抱えて船に帰った。町一番の美人については、まあ、美醜は主観だしそもそも町の美人レベルを知らないから何とも言うまい。宣伝マンの賃上げについては進言しないことにした。
　質の良い百花蜜を手に入れて終わった休暇の話。

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20180831

utaeさんは大潮の日、草がぼうぼう生えた3メートル角の空き地で百花蜜の小瓶を貰った話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943

＊別にさみしくないですね。ゾロは出ても来ないしゾロサン臭も全くしない、という点においてさみしいと言えなくもない（無理矢理）
＊大潮は海が荒れるってわけじゃない…？　書き始めた時にそのようにイメージしており、そんな書き出しになってしまいました。物を知らぬ。お恥ずかしい。