寝物語 2015/02/05__00:00

＊眠りたくなくなるサンジさんの話

---

　この繊細さは、自分でもちょっとどうかと笑っちまうんだけど。
　ちょっとした事で、眠れなくなっちまう。いや、違うな。眠る気が、なくなる。寝床に入るのが嫌で、ずるずるとその時間を先送る。
　ガキの頃は、目を瞑って意識が途絶えたら、二度と目が開かないかも知れない、と不安になった。怖くて、怖くて、がむしゃらに働いた。何も考える前に眠ってしまえる様に。もし朝になっても俺が目を覚まさなかったら、おい起きろ、お前が居なきゃ困るんだ、って誰かが俺を叩き起こしに来てくれる様に。
　ただ海を見てるしかなかった時は、そんな余裕もなかったけど、飯があって寝床があって、働ける様になると、やっぱり寝たくなくなった。そん時ゃジジイが無理矢理抱き込んで、すっぽり。毛布にくるまれて。そうすっと、固ェんだけどあったかくって。ぽかぽかと。人肌って、強いな。そんなの、知らなかった。それまで、知らなかったんだ。
「お前はもうガキじゃねえし、すっぽりたァいかねえけど」
　ハハ、充分だ。
「俺も爺さんじゃねえから、抱き込むだけってわけにも、いかねえ」
　不埒だねえ？
「ぐっすり、眠らせてやる」
　頼むよ。ああ、でも、海賊が熟睡しちゃマズくねえか？
「俺が居んだろ。何かあれば、俺が、起こしてやるから」
　さしあたって、朝飯の仕度…の時間……



　規則正しく深くなる息に、不埒に動かしていた手が戸惑う。
　お前が居なきゃ困るのは、飯を待つクルーだけじゃねえんだけどな。
　取り敢えず、今夜は人肌に完敗だ。
　おやすみ、ダーリン。また明日。

---

20150203

＊眠れるって、幸せ。