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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*6月18日付『ロマンスの不足』の続き。初夏のお茶会ミッション提出作、です。

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 急激な人口増加に伴い海を埋め立てて作られたこの土地は、今や商業施設が建ち並ぶデートスポット、らしい。
 小さな諸島に囲まれた本島の、埋め立てていない、島本来の土地にある市場で、果物屋のオヤジが特産品の美味い食べ方と一緒に教えてくれた。

「夕焼けがロマンチックだからな、女の子でも連れてってやると喜ぶぜ? なにせうちのカカアもそれに引っ掛かったクチだ、あの頃はまだ埋め立てたばっかりで、タダの野っ原だったけどなあ。今は橋とか木とかもピカピカすっから、夜景も良いんだ。こじゃれた店がいっぱい出来たけどよ、美味いパンケーキ食わせるカフェがあるからな、兄ちゃんそこに行くと良い」
「ここのフルーツ卸してんだな?」
「あたぼうよ」
 気の良いオヤジだ。マダムもお若い頃はさぞや、って風貌で、俺は彼らのロマンスを成就させたロマンチックに心惹かれた。

 ログが溜まるまでの丸一日、各々陸での仕事を済ませた後は自由時間として与えられている。仕事の速い俺は早々に買い付けを終え、若者が集うきらびやかな街に足を伸ばした。勿論目的はロマンスだ。そろそろ訪れる時間のロマンチックだ。カップルだらけのこの街にも、ひとりぼっちのレディがひっそり震えて俺を待っているかも知れねェ。もしかしたらナミさんかロビンちゃんがふらりと迷い込んで俺とばったり会うのを期待してるかも知れねェし。男サンジ、レディの期待にゃ応えねば。

 人工の海岸に沈んで行こうとする太陽を左手に、右手に大きく窓を取ったカフェを見ながら、俺は橋詰に続くウッドデッキを歩いた。手を繋ぎ腕を組み体を寄り添わせるカップルの間隙を縫って、一人俺を待つレディを探す。
 なかなか見つからねェもんだなァ。

 ぷかぁと吐いた煙にカップルが眉を顰めわざわざ咳き込んで見せる。嫌味だな、とは思うが、レディの思い出に水を差すのも忍びない。止む無く煙草を諦めて灰皿で揉み消した俺の目を、右側から光が射た。目を眇めて光源を探る。カフェのガラス窓は太陽光を反射して、一瞥だけで中を覗くのは困難だ。しかしそれでも目に入ってきたのは、ガラス窓の向こう、カップルだらけのこの街に似つかわしくない、一人の男。きらりと光を放つのは、夕陽になりかけた太陽を弾くそいつの左耳に三つぶら下がる金属片。

 なんでクソマリモがこんなオシャレなカフェで一人、窓に向かって茶ァしばいてんだ?
 ゾロはじっと目を凝らした俺をじっと見ると、ちょいちょい、と手招きをした。ぐるっと指を回し、店内に入って来いと指図している。
 なんで。俺が。お前の指示通り動かなきゃなんねんだよ!
 可愛らしいウェイトレスちゃんがはにかみながらゾロのコップに水を注ぐ。美しいレディがデート中にも関わらずちらちらとゾロの横顔を盗み見る。そんなものが視界に入って、ぼうぼうと燃える導火線が俺の足を店内に向かわせた。
 あいつ生意気なんだよ!黙ってりゃ、実は意外に男前でありやがる。無駄に!実情を知らなければ、目を惹くのも然もありなん。全く以て無駄だ!実情を知らしめたい!

 店の入口に回り込み、店内を覗くと可愛らしいウェイトレスちゃんが「お一人様ですか」と言った。
「ええ、あなたと二人連れになる為に今は」と答えたい所をぐっと堪えて「いや、連れが居るんで」と断り、窓に臨むカップルシートにどっかと座り込む、でかい背中に足音荒く近付く。のんびりと振り返ったゾロは「来たな」と嬉しそうに言って、自分の隣の座面をぱんぱんと叩いた。
 座れって?
 何だかもう腹が立って腹が立って震えていると、先程のウェイトレスちゃんがメニューとお冷やを置いてくれる。灰皿は無い。クッソ、店内禁煙か!

 俺は窓を前にゾロの隣に座った。出来るだけ体は離す。メニューを捲ると色とりどりのフルーツが飾られたパンケーキが幾種類も並ぶ。ああここが果物屋のオヤジが言ってた美味いパンケーキを食わせるカフェか。俺は一際大きな写真の、おそらく一押しであるミックスベリーのパンケーキと紅茶をオーダーした。勿論、ウェイトレスちゃんには極上の笑顔を向ける。
「かしこまりました」
 可愛らしい声で可愛らしく微笑んだウェイトレスちゃんが厨房へ消えるのを手を振って見送ると、俺の指先は苛立ちでテーブルをとんとんと打った。周りの客はカップルだらけ、なのに俺の隣にはクソマリモ。ちらちらと感じる視線は悉く隣のクソマリモに注がれ、おまけに煙草も吸えないときた!

 クソマリモはひっきりなしに動く俺の指を、非難がましく見た。
「何だよ」
「ちっと落ち着け」
 そう言って、あろう事か、俺の手を上からそっと握りやがった。
「なっ」
「まあ、見てろ」
 ゾロは俺の手を押さえたまま、窓の外に視線を動かす。

 ガラス窓の向こうでは、幸せそうなカップルが幾組も通り過ぎる。にこやかに笑む顔はお互いの顔を見て、太陽の沈む海を見て、また互いの顔を見て、笑む。

 正しいロマンスのあり方だよなあ。

 カップル達を染める太陽光は、見る見る赤くなっていく。目に痛い程の赤く強い光を、俺は見ていた。手の甲に、力強い熱を感じながら。クソマリモに手を握られているというのに俺は微動だに出来ない。
 光が弱まるにつれ、空の赤みは落ち着きを見せる。蜜柑色から桃色に。青みを帯びて、葡萄色のグラデーション。最も弱い光に影は消えた。時が止まった様な静寂が場を支配し、一転、藍を増した世界は夜に突入する。

 これは、確かにロマンチックだ。
 ふと、ゾロはどんな顔してこの光景を見てんだろうと思った。おそらく俺に、見せたかった、光景を。
 ウッドデッキと海岸の間に植えられた街路樹がイルミネーションの舞台になったのを機に、顔を横に向けた。ゾロは、どんな顔で、どんなつもりで…?

 予想外の光景に、俺の口はぱかんと開いた。

 ゾロは、大きな口を開けて、パンケーキを食っていた。片手を俺の手に置いたまま。
「お前それ、俺のパンケーキ!」
 多分正しい突っ込みではない。や、言ってる事は正しいが、突っ込む所はそこじゃない。が、そうとでも言わないと、俺のセンチメントが可哀想だ。

 ゾロは口の端にベリーとクリームを付けたまま、フォークで一片を突き刺すと、俺に差し出した。
「そこそこ美味いぞ」
 何でもない様に言うから、俺は素直に口を開けた。すかさずベリーとクリームの乗ったパンケーキが入ってくる。
「な?」
 お手柄だろ褒めろ、みたいな顔で言う。オーダーしたのは俺だ馬鹿。

 上品な甘味と数種のベリーが醸し出す甘酸っぱさ。確かに美味い。が、パンケーキが温かくクリームが冷たいうちに食べたかった。ポットで供された紅茶は、引き上げ時を見失われた茶葉が、既に温度を下げた湯の中で泳いだままだ。カップに注いで口に含めば想像通りに渋い。勿体無い事をした。

 俺はどれだけ夕景を眺めてたんだろう。ウェイトレスちゃんがサーブしてくれたのも気付かずに。クソマリモに手を握られたまま。
 太陽が残した明りが形を潜め、人工の明りが存在感を増していく。街路樹や、隣接する島に架けられた橋を彩る光は、ランダムな明滅で不思議なリズムを作る。

 これも、確かにロマンチックだ。
 カップルはうっとりとイルミネーションを見て、互いの顔を見る。正しいロマンス。

 ゾロは、どんな顔をしているんだろう。まだ頬張ってんのか。流石に汚れた口は拭いたか。どんなタイミングで顔を向ければ良いんだ。
 図りかねていると、光るイルミネーションが徐々に減っていき、ふと全ての光が落ちた。次の瞬間、ぱちぱちと音でもしそうな勢いで、イルミネーションが激しく明滅する。線香花火の最期の様な美しさが大規模で目の前に広がり、静かだった店内が一気に感嘆の息で満ちる。ガラスの向こうのカップルもきらきらとした目を見合わせている。つられる様に、というのは多分言い訳だが、俺はゾロを見た。

 俺を見ていた。

 激しい明滅のイルミネーションを受けて、めまぐるしく光と影を交差させる顔を、俺に向けて。
 やはりそれは予想外で、俺の口はまたもぱかんと開いた。
 ゾロは、満足げに顔を笑ませた。

 畜生、こいつやっぱり男前だ。俺はうっかり見蕩れてしまって、それは何とか誤摩化さなきゃならねェと思ったから、言った。
「すっげー、ロマンチック、な?」
 ゾロは、また笑んでから、ほんの僅か、毛の先程の不安が隠れている様な声で、言った。
「足りるか?」
 え、何?
 という意味で目を丸くした俺に、ゾロは言った。
「ロマンス」

 ああ、俺が「足りない」って言ったから。

 あの時は何だか有耶無耶に、結局ヤったんだったから、こいつがそんな戯れ言を気にしてるとは思わなかった。そうだ、あれは戯れ言だ。別にゾロ相手にロマンスが欲しいとか、そんなんじゃない。ロマンスを育むのなら相手は断然レディに限る。なのに。

 ゾロは俺にロマンスを寄越した。
 それがどういう意味か。
 分からない程、俺はロマンスを解さない男ではない。
「…釣りが来る」
 俺は体を少しゾロに寄せ、テーブルを向いていた掌を、上に向けた。ゾロの手の中で。掌が合わさる。

 ゾロはぎゅ、と俺の手を握り、なお一層満足げに笑んだ。
「じゃあ、釣り寄越せ」
 言いながら、唇を寄せてくる。おいおい、これじゃ足りねェって?つーか。
「お前、こんな所で何する気だ」
 睨んでやればぶすくれて、腹巻から何かを取り出しテーブルに乗せた。
「上。部屋とってある」
 予想外にも程がある。ゾロは先程までとは打って変わったエロい笑みを見せた。
「明日は昼までに戻りゃ良いんだろ? ゆっくり出来るな、ロマンス」

 なんだよ結局ヤるのかよ!ロマンチックが台無しだな!

 俺の限界までぱかんと開いていた目と口が、笑みの形になる。
 別に、ヤりたくなったら突っ込んで出して突っ込まれて出して、って関係だって、悪くないんだ。俺だってヤりたいんだから。
 欲しいのはロマンチックそのもの、じゃなくて。
 ゾロが俺にロマンチックなこの光景を見せたいと思った、それこそが、ロマンス、なんだから。

 俺はゾロがテーブルに置いた鍵を取り上げて、ゾロに手を握らせたまま席を立った。
 ゾロと、ロマンスを堪能する為に。
 

20140615,0616,0617,0618,0619,0620,0624

*企画発案・まやのさん。お題発案・komaさん。賛成同意・utae。でした。何にもしてないので、せめて提出一番乗りを目指したよ。
 お題が何かは、作品が出揃ってからの方が良いのかな?(特に隠してないし全く捻ってないんですけど。)これでお題をクリア出来てるんだろうか。
 まやのさんとkomaさんの作品提出を震えて待ちましょう。楽しみ!
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