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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*現代パラレル『給湯室』12と13の間。( index はこちら
 名前も知らなかった一ヶ月のどこか。

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 *****
      



 スーパーの入口で特売になっている緑がかった黒い楕円体の前で、男は立ち止まった。
「アボガド…アボカド…?」
「あー、アボ『カ』ド、だな、アヴォカ…アーヴェオセーアテ。エー、ヴィ、オー、シーエー、ディオ。アヴァカードウ」
「何だその呪文」
「呪文って。綴りだよ、French と English の」
「お前語学出来んのか」
「まあなー、程々に」
 良い色に追熟されているそれを、俺は手に取った。ずっしりとした質感が好ましい。
「お前、好き?」
「わざわざチョイスはしねぇけど、ありゃあ食う」
「じゃあ、サラダにするか、ディップにするか。そのまま醤油でも良いよな」
 なるたけ美味そうなのを探す俺に、男は言った。
「アボカドはマグロに似てるって言うけど、そこまで言う程似てるって気はしねぇな」
「まあ、ほんのり、って程度だよな。あれは、樹の上で熟成したアボカドがトロに似てるっていうんで、そこいらで売ってるのじゃ、そこまでは」
「成る程な。どっちも高級品って事か」
「そうそう。お、コレは食べ頃だな。1コ98円のお手頃価格でも、そこそこ美味く食わせてやるぜ?」
 まだ空だったカゴにアボカドを二つ、丁寧に転がす。

 野菜コーナーを進みながら、男が切り出す。
「ここんとこ肉が続いてて、ちょっとさっぱりしたもん食いてぇんだよな」
 こいつはそこそこの健啖家だと思うが、そんな日もあるだろう。男の家の食品ストックをざっと頭に巡らせる。
「素麺、大量に残ってたよな?」
 他人の家の台所をすっかり把握している自分に、苦笑いだ。
「ああ、貰ったは良いが、茹でんの面倒でな」
「あんなすぐ茹で上がるもん、面倒がってんのかよ」
「素麺だけってのも、侘しいだろ」
「ああ、具が欲しいよな」
「総菜買って帰ったら酒だけで食っちまう。あと、冷やすのも面倒だ」
 料理しない奴ってのはそんなもんなのだろうか。
「じゃあ、煮麺にしたら?」
「なんだそれ」
「麺茹でたらそのまま温めた麺つゆで食うの」
「あー、麺つゆ買うの忘れんだよ、いつも」
「麺つゆなんて、醤油と味醂と鰹節ですぐ出来るのに」
 男は、ほう、と感心した様な息を吐いた。
 ちょっと照れるな。
「じゃあ、今日はあっさりとぶっかけ素麺にするか。具沢山の。アボカドと、そうだな、トマトとか、どう?」
 首肯いた男に満足して、売り場を見渡す。長芋なんかも合うんじゃねぇ?

 売り場を進む。
「味醂って、あるんだっけか?」
 最初の時、確かに存在していた味醂は二度目の時以降、その場所から消えていた。
「そういや捨てちまったな」
「じゃあ、麺つゆにしとくか」
 捨てられちまうんなら。
「自分でも茹でて食べろよ、素麺」
 何か言いた気な男が口を開く前に言って、麺つゆの瓶をカゴに入れた。

 本日の買い物。アボカド、トマト、長芋、麺つゆ。


 アボカドの長い外周に包丁を入れる。一周したらぐるりと捻る。二つに割れる。
「おお、食べ頃だ」
 種を取り出す。つるりと取れる。
 いつもは風呂に入る男が、興味深そうに俺の手元を見ている。なんだか落ち着かなくて、話し掛ける。
「この種は、何かに使えそうだな、っていつも思うんだけどよ、当然何にも使えねぇんだよ」
「子供が遊ぶには手頃な大きさだけどな」
「でも、投げたら結構な凶器になるだろ」
「第一子供居ねぇしな」
「そうなんだよ、精々掌の上で転がすくれぇ?」
「胡桃二つクルクル回すのは何だっけな?」
「やるか?」
 洗って二つ、掌に乗せてやる。大きくて厚みのある掌の上で、アボカドの種が綺麗に転がる。太くて武骨な指は、意外と器用だ。そうしながらも、視線は俺の手元を見たままだ。
「皮、ぺりぺり剥がれんだな」
「結構気持ち良いんだよ、かさぶた剥ぐみてぇで」
「剥いじゃいけねぇんだぜ?」
「知ってる。でも、剥ぎたくならねぇ?」
「なる」
「だろ?」
 笑った拍子に、種が落ちた。

 三和土まで転がった種を男が拾う間に、果肉を賽の目に切る。
 戻って猶俺の手元を見る男に言う。
「長芋は、摺り下ろしても良いけど、ちっと歯ごたえ欲しいから」
 皮を剥いて粗みじんにする。

「トマトさ、皮付いたままで良いよな?」
 何でそんな事訊くんだ、って顔の男に、トマトを洗いながら説明する。
「レディにお出しすんなら湯剥きもするけどよ。口当たりなんて気にしねぇだろ?」
「皮にも栄養あるだろうよ」
「口当たりか栄養かったら、手間かけねぇで栄養ある方が良いよなぁ?」
 ザクザクと、粗みじん。

 湯が沸いた。
「茹でるぞ?」
 吹きこぼれる寸前で、菜箸を突っ込み茹で加減をみる。
「びっくり水はしねぇのか?」
「しなくていいだろ。火ィ弱めれば問題ねぇし」
 ザルにあける。
「冷えてなくて良いだろ?」
 首肯くので、ざっと締めて水を切る。丼は小ぶりのが朝食用に一つあるだけの様なので、パスタ皿に盛る。その上に、アボカド、長芋、トマトを乗せて、麺つゆを掛ける。
「イタリアっぽいな」
「色な。国旗だな」


「あー、美味ェな」
 ちゅるんと麺を啜った男が言った。
「さっぱりはしてるけど、さっぱりし過ぎでもねぇっつうか。良い塩梅だ」
 頬を膨らして、噛み砕き呑み込んでいる。
「食感も良いな。固いのと、柔らけぇのと、つるんとしたのと」

「ご飯の上に掛けても美味ェよ?」
「トマト抜いたら、山かけ丼みてぇになんじゃねぇか?」
「刻み海苔とか散らしてな」
「酢飯はどうだ?」
「鉄火丼風か。上等じゃねぇ?」
「鰹節かけたら?」
「一気に和風だな。つーかお前、ねこまんま好きだろ」
「美味いだろ?簡単だし」
 少し拗ねた様な顔で。

 料理の事を話しながら、こいつの事を知っていく。


20140228,0304,0311

*アボカドの事を日記に書いたら美味しそうなレシピを教えていただいた(ありがとうございます!)のでサンジに作らせてみたけど、いただいたレシピとは違ってしまいました(何故だ)。私の頭の中で作っただけで、実際に作って食べてみてはいないので、本当に美味しいかどうかは分かりません。(何たる無責任!)

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