爛れ倦む 2 2013/09/20__00:00

＊現代パラレル
＊9月6日付『爛れ倦む』続編
＊サンジの恋愛遍歴。ゾロとの始まりまで。

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　俺に肛門交合の快楽を教えた男には、スカトロ趣味があった様だ。
　事前準備や後処理については一切教えず、それによって付き物となる汚物にさえ興奮していた。
　俺は、男同士のセックスとはそういうものなのだと思った。
　俺の汚物に恍惚とする様や、腹が痛いのも、その結果の屈辱も、決して歓迎出来るものじゃなかったが、肛門で得られる快楽がそれを凌駕していた。
　一年程続いたその男との関係は、「結婚するんだ。だから…」という男の言葉で終わった。
　男の方はその後「今程頻繁には会えないけど…」と続けたから、別れるつもりはなかったんだろうが、そうは問屋が卸さない。俺の存在がレディを泣かせるなんてとんでもない話だ。結婚話を進めながら男を抱く様な趣味の悪い男に喜んで腰を振る様な俺でも、流石に、自分の夫が男を抱いていると知ってレディが平気でいられるとは思わない。
　それでも、失恋だった。心は傷付き、体はセックスを欲した。
　二番目の男は前の男と俺の関係を知っていて声を掛けて来た。しかしスカトロ趣味はなかった様で、事前準備や後処理について何も知らない俺に驚き、懇切丁寧に教えてくれた。
　随分大事にされた、様に思ったが実際は、汚物は嫌悪しているが肛門交合の快楽には抗えない、従って汚物を遠ざける努力を怠らない男だった、というだけの話だった。そういえば常にコンドームを装着していた。解す段階の指にさえ、欠かさなかった。それで愛を疑った訳ではないが、他の男の腰を抱いて暗がりに消えていくのを何度か目の当たりにすれば、熱も冷める。
　三番目の男は男経験などないウブな同級生で、俺の事を好きだと言いながらキス以上の事をしないから、俺が全部教えてやった。この世界に引き摺り込んでしまったのは悪かったかなと思う。しかし体を重ねる毎に髭を剃れだの臑毛はちょっとだのと要求がヘテロ化していったのに閉口した。俺はレディになりたい訳じゃ無い。「女の子の方が良いなら、戻れよ」と言って会わないようにした。後に街で女の子と歩いているのを見かけたから、無事戻れたんだろう。

　新しい男と付き合う度、交際期間は短縮していく。
　俺には何か、欠陥があるんじゃないか。
　女の子が大好きなのに女の子には欲情しない時点で大きな欠陥だ、と気付いた時には、笑った。一端の恋愛をしようだなんて、思い違いも甚だしい。
　それからは、体の付き合いばかりだ。一夜だけの恋人。またどこかで会って、タイミングが合えば、そういう事にもなるかも知れない。けれど先の約束は一切しない。そんな刹那の恋だけを重ねていた。

　ゾロに出会ったのは、そんな頃だった。

「次、いつ会える」
　ベッドを抜け出した俺の腕を掴んで、数時間前に会ったばかりの、けれど体はすっかり馴染んだ男は言った。
「え、次？」
　思わず漏れた声に、男は眉を顰めた。
「これっきりのつもりか」
　ちょっと拗ねてるみたいな声が、可愛いと思った。
　予定を立てる事を忘れた頭で、次の休みを思い出す。
「水曜の夜なら」
　男はごそごそと何かを書き付けて俺に寄越した。
「家出る前にでも電話しろよ。居る様にするから」
　住所と、11桁の数字。
　部屋の隅に転がしてあった自分の鞄にその紙を押し込む。
「シャワー貸してくれ。済んだら帰るから」
　転がっている服を拾い集めて言う。男は大欠伸をして、起き上がった。
「まだ明け方だし、寝てれば」
　そう言った俺に、箪笥からタオルと着替えを出して俺に渡してから、男はベッドに戻った。
「次ん時、返してくれりゃ良いから」
　そう言って、次の瞬間鼾を響かせた。
　パンツはご丁寧に新品だ。
　俺はシャワーで清めた体を、少しだけ緩いそれの中で泳がせながら、朝日の中を歩いた。帰り道なんて分からない。けれど、水曜の夜、来るべき場所は分かっている。
　それだけで、足取りは軽かった。
　恋の予感に、浮かれていた。

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20130919