さみしいなにかをかく #17 2019/02/04__00:00

お題お借りしました。現代パラレル『水煙草』

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　昨晩は昔馴染みに頼み込まれ、半ば拉致される形でキャンディにされ、接客を強いられた。大変な世話になった過去により、どうしても人手が足りないのだと泣きつかれては断りきれなかったのだ。
　キャンディってのはまあ隠語で、所謂オカマってやつだ。おぞましい女装姿の男どものことだが、奴ら、心はレディだからな。不細工だの気持ち悪いだの言ってやるのは心が痛むから、婉曲表現でキャンディと呼ぶ。まあ俺は言うんだけど。

　日付も変わろうかという時間から（それくらい夜が深くなってからでないと、キャンディ達と酒を飲もうという酔狂な客も現れないのだ）、キャンディ達の顔面が更におぞましいものに変化する、空が薄らと白む夜明けまで（その頃には酔狂な客の判断力も一層ぐずぐずに溶けており、店内は大層な盛り上がりだ）。
　酒と煙草と化粧の匂い、それとダミ声の充満する薄暗い室内で、髭も臑毛も生やしたまま、おざなりにドレスを着て厚塗りの化粧を施しただけの俺に好色な視線を絡め付かせる物好きの相手は、非常に疲れた。純粋な肉体疲労よりも精神的な疲弊がこたえているのだろう、いくら寝ても寝足りない。
　断続的な睡眠を打ち切ったのは、昨晩の顛末を知らないゾロだった。夕刻、珍しくもゾロに「出ないか」と誘われたのだ。
　ぼんやりした頭で「確かこっちだ」と言うのに着いて行く。珍しく、行きたい場所があるらしい。まともに目指した場所に辿り着けるかは怪しいものだが、それについて物申すだけの気力はなかった。
「確かここだ」とゾロが立ち止まったのは、地下へ降りる階段の前だった。『この先カフェ』と斜め下に向いた矢印が書かれた看板には『水煙草あります』と書いた紙が貼られている。

　お前なんか疲れてるみてえだし、最近のカフェは煙草が吸えねえとかなんとかぼやいてたじゃねえか、いつもお前が吸ってるのとは違うかも知れねえけど、煙草は煙草だろ、思う存分吸え。

　心持ち早口でぼそぼそ言いながら、ゾロは階段を降りる。柄にもなく俺を慮った事に、照れてんのかな。ちいっと可愛いじゃねえか。
　重い扉を開いて入った店内は、薄く烟って独特の甘い香りが漂っていた。
　案内されるままに仕切られたスペースに腰を据える。水煙草の装置を囲むように椅子が配置されており、複数人で吸うシステムらしかった。
　ゾロは俺の左膝に右膝が触れる位置に座った。物珍しいのだろう、きょろきょろと店内を見渡している。オリエンタルというかエキゾチックというか、実は俺もよくわかっていないが、俺たちにはあんまり縁のない世界の装飾だ。
　よくわからないなりに注文し、セッティングされる。確かに紙巻煙草とは違ェが、煙草は煙草、だよな。遠慮なく煙を吐く。白の濃くなった空気のすぐ先で、ゾロがなんだか神妙な顔で俺を見ていた。

「お前もどう？」
　なんだか照れくさくて、誘ってみる。
「いや、俺は」
　と断りながら、ゾロの手が俺の顔に伸びた。
　なに？ 柄にもなくどぎまぎしてしまう。
「お前、きらきらしてるな」
　なにそれ、口説き文句かよ？
　ゾロの硬い指先の皮膚が、俺の柔らかい目蓋の皮膚に触れた。すげえ、熱い。
　ゾロの顔が近づいてくる。嘘だろ、キスでもする気かよ。思わず目を瞑ってしまう。おいおい、これじゃあキスを待ってるみてえだ。まずいだろ。心拍数が上がる。すると。

「取れた」
　耳元で聞こえた。
　え、なにが？
　目を開けると、至近にきらきらした物が付いたゾロの指。ラメの一粒だ。しまった、化粧落としが万全でなかったか。
「なんだこれ」
　ゾロは矯めつ眇めつしている。
「さ、さあな？」
　俺はごまかしがてら、盛大に煙を吹いた。

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20181226,20190125,0203

utaeさんはいくら寝ても寝足りない日、水煙草のあるカフェでまつげに一粒だけ乗っていたラメの話をしてください。
#さみしいなにかをかく
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＊ええ、水煙草について何も知らずに書きましたとも（開き直る）