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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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お題をお借りしました。海賊ゾロサン『故郷』

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「故郷では毎年、この時期に初雪が降る」

 俺のつけている日誌の日付を目で追いながら、ゾロが言った。
 メニューや食材の管理に利用しており、簡単な気候やクルーの体調、その日の出来事なんかも書いている、極めて個人的なメモだ。俺に何かあれば船の財産になるかも知れないから本当のプライベートは書きやしないが。そんな事まで書いていたら、ナミさんがいかに素晴らしい女性かを書き連ねて埋まっちまうからな。
 まあ、そんな個人的なメモを目の前で書き、それを覗き込む事を許す様な間柄だ。

「割と四季のはっきりした島でよ」
 日誌を綴りながら、続きを促す。
「シモツキ村って言ってよ、霜月ってのは、11月の事なんだが、そんくらいから寒くなって、時々雪がちらつく様になる」
 一つのもんしか見てない様な奴だから、故郷の事だとか、過去を振り返る素振りは珍しい。
「積もる前に解けちまうんだけどな」

 川があって。小さな橋が架かってる。飛び越えるのはちっと難しい幅で、山猿ならいけるかも知んねえが、俺は何度か尻から落ちた。頭打って流されかけて、そっからは橋を渡る事にした。くいなに、通ってた道場の娘な、絶対飛んじゃ駄目だ、って命令されて。また飛んだらもう勝負してやらないとか言いやがるからよ。結局一度も勝てなかったけど。おっかねえんだ、あいつ。

 はは、と小さく笑う。幾つの頃の思い出だろうか。女の子に勝てなかったくらいだ、随分幼い頃だろう。

 歩いて渡るのも、真夏なら良いかも知れねえけど、それにしたって年寄りには無理だ。まあそんな小さな橋でよ。雪が降ったんだ。もう尻から落ちる事もないだろうけど、くいなも居なくなっちまってたけどよ。俺は律儀に橋を渡ってた。空も川も鈍い灰色だった。夏なんかは澄んで開放的な色をしてるんだ、抜ける様に青くて。川っぺりには緑の草が野放図に生えてたのも、その頃には枯れてるしよ。全体的に重たい色で、押し潰されそうな気持ちになった。橋はそろそろ架け替えの時期で、ぎしぎしと軋んでた。
 約束を忘れた事なんてなかったけど、隠して生きてた。約束した相手は死んじまったし、誰も本気だと思っちゃくれなかった。笑われるのはどうって事なかったけど、戯言だって思われるのは我慢ならなかった。そう思われるくらいなら、隠してた方がマシだった。約束を果たす為には村を出なきゃならねえってのに、俺がいつまでも村に居る前提で村が設計されていく。隣の親父が腰を痛めたから稲刈りの時はお前二人分働けよ、とか、次の祭りはどこぞの誰が頭領役だから、お前はその次の次の年だな、とか、今度向かいに嫁いで来るのが子を産んで、その子が走り回る頃にはお前の嫁も探さなきゃならねえ、とか。俺は竹刀ぶん回してばっかりだってのに、どうして村で生きる事にされてんだろう、って、不思議だった。雪は降っても、積もらなきゃなかったものになっちまう。
「俺は世界一の剣豪になる!」
 叫んだ。落ちてきた雪に視線を取られてた村の奴らが、俺を見た。誰も何も言わずに、生活に戻った。俺はそのまま村を出た。親父の腰がどうなったか、赤ん坊が生まれたかどうか、誰が頭領役をやったか、俺は何も知らない。でもきっと、村は回ってる。俺が居なくても、村は回る。新しい橋が架かって、それもまた架け替えの時期かも知れねえ。

「帰りてえか」
 俺は訊いた。初めて聞く話ばかりだった。
「約束が、まだだ」
「世界一の剣豪になったら、帰りてえか」
 ゾロは一瞬言葉を飲んでから、言った。
「分からねえ」

 殊更からかう口調で言った。
「ああ、場所が分からねえんだっけ。お前根っから迷子なんだなあ。大丈夫さ、ナミさんが見つけてくれる」
「そういうこっちゃねえ」
 ゾロは渋面で抗議した。
 そんなことは分かってる。

 更に軽口を叩いた。そうでもしないと、居られなかった。
「向かいに子供が生まれてたら、許嫁が用意されてるのかもな。美人だと良いなあ?」
「馬鹿言え」
「なんでだよ、居心地が悪かったわけじゃねえんだろ、ただ、野望には邪魔だっただけで」
 村はお前を必要としていた。だったら、帰れば良い。
 つい、唇を噛んだ。それで俺が何を思ったか理解したわけでもあるまいに、ゾロの声は穏やかになった。
「俺が居なくても回る村より、俺が必要とされる場所がある」
「どこ」
「言わせんのか」
 ゾロはにやりと笑って、俺の頭を掴んだ。そのまま引き寄せられる。
「俺が必要としてんのも」
 馬鹿力で厚い胸板に顔を押し付けられている。顔が見られない様にしてるんだろうな、顔が赤くなってんだろう。心拍が速い。
「恥ずかしい奴」
 負けない馬鹿力で、抱きついてやった。同意の表明だ。

 ここはお前の故郷じゃねえから、初雪は降らねえ。海のど真ん中だから、小さな橋もない。隠しておくこともないし、喋りたかったら、幾らでも。何も、隠さなくて良い。誰が必要で、誰に必要とされたいのかも。


20180525,0528

utaeさんは故郷の街に初雪が降ったという日 、小さな橋で隠しきれなかったことの話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943


*すごく捏造した。
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