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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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 街の中心から外れた宿の前で、コックと鉢合わせた。道々の宿で満室だと宿泊を断られた結果だ。
「オメェもここにすんの?」
「空いてればな」
「俺もここで三件目だ。確かに花は綺麗だけどな、宿が取れねェのは困るよなァ」
 コックの口調は穏やかだった。陸地の気楽さからだろうか。俺に対する態度が、普段よりだいぶんまろやかだ。仲間の目がない所為かも知れない。二人きりの夜などは、案外、静かな男だ。

 久し振りの上陸となったこの島は今、観光シーズンなのだそうだ。島のあちこちに、むせ返るような匂いで咲き誇る花と物見遊山のよそ者が溢れていた。
「シングル二部屋、空いてるか?」
 ずかずかとロビーを進んだコックが、ガラ悪く受付に声をかける。受付は畏まって応えた。
「生憎本日はご予約たくさん賜っておりまして……ツインルームなら、一部屋ご用意出来ますが」

 コックが珍妙な眉を歪めて渋っているうちにも、大きなカバンを抱えた男女二人連れがきょろきょろしながら入って来た。そろそろ日が暮れる。折角の島だ、野宿は御免被る。たまにはふかふかの寝床で休みたい。今から他の宿を当たっても、結果は同じことだろう。
「それで良い」
 急に口出しした俺に、コックは少し驚いた風情で眉間のシワを緩め「まァ構わねェか」と言った。
 悪ィな、観光客。別の宿を当たってくれ。秋島の夏だ、花を愛でながらの野宿も、悪くない季節じゃねェか? たまには青姦ってのも、なァ?
「恋人同士なら、どこで夜を明かそうが良いよなァ。連れ込み宿なら、まだあるだろうし」
 受付が丁寧に満室を告げているのを背に、コックは鍵をちゃらちゃらと鳴らして言った。
 そうだな、俺たちは恋人同士じゃねェから、ベッドが二つなきゃ困る。宿が取れねェのも、困る。

 あてがわれた部屋はこじんまりとしており、二つのベッドがぎゅうぎゅうと並んでいる。小さな窓は眺望ではなく換気の為だけにあるようだ。あの気をおかしくさせるような花は見えない。とある気分を盛り上げてしまうような、あの花。コックが窓を開け放し、煙草に火をつけた。微かに届いていた香りもそれで消えてしまった。それで良い。俺たちは恋人同士じゃねェから。変な気分になっては、困る。

 一つ前の島だった。やはり花が盛りで、宿は確保出来なかった。夏島の春だかで気候も良く、花の下で夜を明かすのも悪くないと思った。腰を落ち着けた先に、コックが居た。幾らか酒の入っていたらしいコックは、とろんとした目で俺を誘った。俺は躊躇なく応じた。花の舞う中で欲を発散し、一眠りした後の朝、コックは衣服を整えながらぼそりと言った。
「飲み過ぎたな」
 俺は「そうだな」と応えたように思う。
 なんらかを明確にするのを、なんとなく躊躇った。躊躇うような事だった、という事だろう。
 あれはあの時の一度きり。一度きりなら、気の迷い、物の弾み、ただの事故。二度目には、理由が要る。俺たちにはその理由が無い。だから、二度目は、無い。
 あれからコックは俺と二人の時、酒を飲まない。それは、そういう事、だろう。

 コックは窓にもたれて紫煙を外に吐いている。特に話す事は無い。する事も。片方のベッドに寝転んで、目を閉じた。コックの気が、若干和らいだのを感じた。コックも困ると感じていた、そういう事だろう。
 努めて、意識を手放した。


20170512,0513,0721,0722,0723,0724

*続きが欲しい。
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