忍者ブログ
『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

お題お借りしました。現代パラレル『六花』

拍手




 *****
      



 黒いメルトンのコートに白いものが着いた。ちらちらと天から落ち始めた雪だ。白いごみ粒の様なそれは、よくよく見れば放射状に伸びた六つの枝が繊細なレースで繋がっており、六花の名にふさわしい。いつまでも吐く息が白いままの今日は、結晶の形を保つのに適しているのだろう。サンジは目の高さまで腕を持ち上げて、次々と舞い降りる雪の結晶を眺めていた。
 それにしても眠い。夜勤明けの朝だ。
 車回すから待ってろ、と言い置いて、ゾロがサンジを寒空の下に放置してから煙草が一本灰になった。
「そうなんさせるきか…」
 悪態を吐く口も強張っている。寝たら死ぬぞ、と大昔にテレビで見た雪山遭難コントが頭の中で再現される。そういや随分不謹慎だが、そんなのも許される時代だった。…いかん、眠た過ぎて思考が朦朧としている。
 腕の六花は重なり始め、観察には不向きになってきた。申し訳程度の軒が雪の直撃は避けてくれているが、不規則に舞う雪に対して大した防御は期待出来ない。もはや頬に落ちる雪にも冷たさは感じなくなっていた。目を閉じて上を向く。置いてけぼりにする程薄情な奴ではないと知ってはいるが、意図せずそうなってしまいかねない奴だという事も知っている。暖かい車内での居眠りは諦めるか、と駅への道を辿りだすと、懐かしいセダンが横に滑り込んだ。ゾロの車に乗るのも久し振りだが、乗り替えていないのらしい。ひょっこり居なくなったあの日のまま、時が止まっていたかの様に何も変わらない。

「待ってろって言ったろ」
 運転席のドアを開け怒鳴るゾロの頭は心なし濡れている。車までが鬼門だったか。車に乗っての放浪じゃ機動力が高すぎるもんな、不幸中の幸いだ。
「遅ェんだよ」
 今日は帰るか、明日になるか、来週には、来月かも、と思ううち、一年近くが過ぎていた。なんでもないみたいに、ひょっこり帰ってきやがって。
 言えない愚痴はぐっと呑み込み、後部座席の扉を開いてシートに倒れこむ。勢いで閉めた扉は体に纏わり付いた冷気も一瞬で断ち切り、急激な暖気に意識は更に朦朧とする。
「ちっと、寝る」
 待たせた手前か怒鳴るのを諦め溜息を吐くに止めたゾロが車を滑らかに発進させたところまでがサンジの記憶だ。

 耳の下でシート越しにコーコーと高速で走る雰囲気を察知して、サンジは目を覚ました。車内は暖かく、コートの六花は見る影も無い。悴んでいた指先や強張っていた頬も温まっている。窓から差し込む光は雪が降っていたのを忘れる程明るい。
「どこ」
 掠れた声で訊いたサンジに、ゾロは「起きたか」と答えにならない返事を寄越した。ゾロに所在地を訊くなんて、まともな答えが返ってこないのはサンジも充分知っていた筈だ。寝呆けている。或いは、久し振り過ぎて。
「なんじ」
 問いながら体を起こしてシートに座ると、下ろした足の下で何か乾いたものが砕けた気配がした。
「悪ィ、なんか踏んだ」
 寝呆けたまま素直に謝って座席下を覗き込む。足の下にあったのは、ドライフラワーの束だった。否、花束がドライフラワーになったもの。
「なんだこりゃ」
 拾い上げると、バックミラー越しの目がちらりと動く。ゾロは「あー」と曖昧な声を出すだけだった。答える気がないのか、答えになる言葉を持たないのか。花束の存在も忘れていたか今認知したのかも知れない。どうしても答えが欲しい訳じゃねェし、と窓の外に目を遣る。延々続く灰色の壁、信号も歩行者も無い片側二車線、立派な中央分離帯。今走っているのはどう考えても高速道路だ。
「どこ行くつもりだよ」
「や、別に」
 これは乗るつもりも無く気づいたら高速道路だったパターンか。
「まァいいけどな、明けだし、明日も休みだし」
 サンジは大きく欠伸をする。
「まだ寝るか?」
「あー、そうだな、ちと眠い。あんま遠くまで走んなよ、手遅れになる前にパーキングに入れな?」
 浅く腰掛け直して顎をマフラーに埋め、サンジは再び眠る姿勢をとった。手元には砕けたドライフラワー。綺麗な薔薇だったんだろうに、こうなってしまえばもうゴミだ、かわいそうに。知らねェ間に、レディに花束贈る男になったか。贈りたくて贈れなかったから、こんなところで無残にドライフラワーになってんのか。知らねえけど。誰かから贈られたのかも知れねェな。受け取ったんならちゃんと飾ってやれよ、この朴念仁。知らねえけど。この一年の事、何も知らねえ。いきなり居なくなっちまう奴だなんて、知らなかった。つまり、俺はこいつのこと、何も知らなかったんだ。

 規則正しい走行音に、サンジの眠りは直ぐ訪れた。ゾロは滑らかにセダンを走らせ、次のパーキングエリアで止めた。バックシートに視線を遣る。サンジの寝顔と薔薇だったもの。本当は、こうなる前に渡す筈だった。結局一年近く経って踏みつけられる結果となった。そりゃ、こいつはそんな事知らなかろうが。このままゴミにしちまうか、伝えるだけは伝えようか。
 いつの間にか上がっている顎、ほんのり開いた口、平和そうな眉間。そんな安心感でゆるく握るは贈られる筈だったとは知らずに枯れ果てた花束。
 逡巡は、回想を連れる。一年近く前の逡巡を。

 想いを伝えるにはどうしたら良いだろうか、そもそも伝えて良い想いだろうか。ぐずぐずと思い悩み、誕生日だと聞いてやっと伝える気になった。誕生日に薔薇の花束を贈るなんて、ベタ過ぎるだろうか、そういう方が好きだろうか。柄にもなく考えた。渡しに行こうと車を出した途端、行かねばならぬ理由が出来た。捨てられぬ野望を叶える、少なくともその取っ掛かりが突如目の前に現れて、そちらを選んだ。ほんの少しの勇気が足りず、タイミングが些細にズレた、その結果。恋の様なものに浮かれているのか、お前の野望は何だ、と、冷水を浴びせられた心持ちがした。
 その結果が今、サンジの手に握られている。

***

 花屋から出て、何と言って渡すか思案しつつ車に戻ったところで、ゾロは宿敵と鉢合わせた。
「鷹の目…!」
 スーツケースを傍らに置き、携帯電話を睨みつけていた鷹の目ことミホークは、ちらりとゾロを見遣って言った。
「ロロノア、といったか」
 名前を覚えていられた歓喜を必死に押し隠し、ゾロはミホークに近づいた。
「こんなところで、何やってんだ」
 聞けば、今から山籠りに入るのだが、手配した筈の足がキャンセルになったのだと言う。
「どうしたものかと思ってな……これはロロノアの車か」
 ミホークは、型は古いが洗車したばかりのゾロの愛車に目を遣り、次いでゾロの目を鷹の目で射た。
「良い車に乗っているな」
 思わせ振りな視線だった。
「乗せてってやろうか」
「乗せるだけで良いのか?」
 ちょっとした貸しを作っておくのも悪くない、程度のつもりで申し出たゾロに、ミホークは意地の悪い笑みで返した。
「探しているのは運転手兼同行者だ。生活の面倒は見る予定だった。稽古も、場合によっては」
 つまりは、同行を許可されている。
 ゾロの倒すべきは正しく神出鬼没で、この機を逃せば次いつ出会えるか分からない。その上、稽古まで?
 ゾロに否やがある筈も無かった。

「直ぐに出立するが、別れを告げねばならぬ相手が居るのではないか?」
 ミホークはゾロの握った花束に視線を遣った。
「半年ないし一年、帰れぬぞ」
 一瞬の迷いも、見せてはならないと思った。
「構わねえ。足になってやる。連れて行け」
 睨みつけるゾロを微かに鼻で笑った気配を見せたミホークは「よかろう。同行を許可する」と言って後部座席に乗った。
 ゾロは運転席に収まり、用を為さない事になった花束を助手席に安置した。その瞬間だけ消沈した心は、アクセルを踏み込んだ瞬間、高揚する心に取って代わられた。
 以来一年弱、助手席に放置され枯れ果てた花束を後部座席に放り山を降りるまで、ゾロの心にサンジは居なかった。野望ばかりだった。その代わり、車を出してからはサンジばかりが思い浮かんだ。無事辿り着いて、その手には今、何の因果か渡し損ねた花束がある。
 まだ何も話していない。何も告げずに居なくなった事、何をして居たか、どうして帰ってきたのか。花束と共に渡す筈だった言葉。

 野望と共には持てない想いだろうか? 否。そんなことでは、野望にも手は届くまい。何の因果か、というなら、伝えよ、との思し召しだろう。

 サンジが起きたら、伝えよう。
 ゾロは目を閉じた。


20170409,0410,0413,0522,0526,0527

utaeさんはコートに雪の結晶がついていた冬のある日、高速道路を走る車の中でよく乾燥したばらを踏んでしまった話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943


*目が覚めたらとっぷり日が暮れていて、そのうえ現在地がどこだか分からなくて、サンジはギャーギャー怒り頭ごなしのそれに腹を立てたゾロも応戦してそれどころじゃなくなるんですけども。ゆっくりやり直してね。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
mail
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[1002] [1001] [1000] [999] [997] [998] [996] [995] [994] [993] [992]
カレンダー
02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
アーカイブ
ブログ内検索
最新記事
最新コメント
[04/16 koma@ツツジの花]
[02/23 タカス]
[04/18 koma]
[12/22 koma]
[12/12 ゆう]
プロフィール
HN:
utae
性別:
女性
手書きブログ
忍者カウンター
忍者アナライズ
バーコード
P R
忍者ブログ / [PR]
/ テンプレート提供 Z.Zone