『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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ジジジジジ——
「なんだこのやかましいの」
夏真っ盛りの夏島だった。土埃の立つ未舗装の道は脇に並ぶ茂った木々が日陰にしている。それにも負けない陽光は斑に俺達を照らし容赦なく灼く。
額から一筋流れた汗をカフスで拭ったサンジは、袖を捲りネクタイを緩め首元を寛げた。滲み出た汗が木洩れ日を弾き、鎖骨を光らせている。
「蝉だな」
木々のあちこちから喧しい合唱が聞こえる。
「一週間しか生きられねえとかってヤツ?」
「いや、地上で鳴くのがその程度、って事だろ。土ン中で、何年も生きてる」
「良く知ってんな」
「故郷にゃいっぱい居たからな。夏ンなると、大合唱だ。お前ンとこには居なかったのか」
「俺ァ海育ちだもんよ」
顔を僅かに背けて吐き出された紫煙がほっそりと棚引いて、僅かに清涼感を醸した。
ミンミンミンミン——
「あれは雄が雌を呼んでんだぜ」
「呼んでどうすんだ」
「そりゃ、交尾だろ」
随分直截な事を、ゾロは自慢げに言う。全くロマンチックじゃねェなァ。まあ虫けらやマリモにそんなもん、求める方がどうかしてるか。
「愛を囁くなら、もっと静かにムード作りゃ良いのになァ? 煩くし過ぎると、レディにゃ嫌われるぜ?」
「お前そっくりだな」
ゾロは笑いを堪える顔で言った。
「なんだと?」
ロマンチックの欠片も無い道端で、俺達はロマンチックの欠片も無く喧嘩する。
シャクシャクシャク——
繁茂は更に勢力を増し、辺りは鬱蒼とし始めた。道もいつの間にか細くなり、空気も幾分冷気を帯びる。
つい、と目の前に現れた物体を、咄嗟に掴み取る。手の中のそれは一瞬藻掻き、直ぐに大人しくなった。指をそっと開いてみると、一匹の蝉。
「お前、飛んでる虫手掴かみするとか、どんだけ野生児だよ!」
けらけらと笑うサンジの眼前に蝉を寄せると、「うぉっ」と大袈裟な声を出して飛び退いた。
「なんだ、怖いのか」
「うるせェ、驚いただけだ」
俺の手の中で、蝉は羽を微かに振るわせている。人の手に握られてしまったら、こいつはもう生きられないだろうか。指の力を緩め、腕を高く伸ばす。せめて交尾には漕ぎ着けろよ。
一瞬ためを作った蝉は、ば、と飛び上がり、しゃ、と…俺の顔に…ションベン引っ掛けやがった!畜生!
サンジは一層けらけらと笑った。
カナカナカナ——
かつて。
『マダム、そのブローチは、虫?』
ぎょ、として豊かな胸元に止まるそれを不躾にも凝視して訊ねた俺に、上得意客は美しく微笑んで教えてくれた。
『ええ、蝉よ。幸福のシンボルなの』
以来、実物を見た事も無い蝉とやらは俺の中に幸福のシンボルとして君臨してきた。
こいつは、幸福のシンボルも素手で掴み取っちまうんだなあ。野望も、いつかその手でがっちり掴むんだろう。
どうにも頼もしく見えて、俺は蝉のションベンを厭そうに拭うゾロに、キスしてやった。俺にしてやれるのは、そんなささやかな事だけ。でも。
なあ、幸福だろ?
鬱蒼とした森の奥。喧しく命を燃やして恋する幸福のシンボルに負けないくらい、俺達はロマンスを謳歌した。
20150712
*お題を決めた店に蝉のオブジェがありまして。南仏で『幸福のシンボル』として親しまれているそうです。お題、難しい…。(決めたのは私でした。)
さてkomaさん、まやのさんはこの難題、どう料理してくれるでしょうか。楽しみ!
*蝉の鳴き声で時間経過とか表せれば良かったんでしょうが(種類によって鳴く時間帯が違うとか)そこまでがっつり蝉について調べられなかったし、音の響きなどを優先したかったので「日本の蝉事情に寄せる事ないよね!」という事で。そもそも同時期に同じ場所に生息するのかも怪しい。多種多様な蝉が生息してる島に寄港したんだね!(毎度適当でどうもすみません)
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