picnic 2014/11/12__00:00

＊どこかの島で山の中に二人迷い込んだとかそんな設定

---

　小川に流れる水はおそらく冷たいだろう。穏やかにではあるが時折吹く風は澄んで冷気を含む。太陽はきらめき陽光を世界に遍く届けるけれど、流れるものにまでその熱を留める程の精力は無い。
　衣服が濡れるのを厭って、しかし最低限のエチケットは持ち合わせていたと見え辛うじての下着姿で、ざぶざぶと流れを乱し食料確保に励むゾロの逞しい背は幾筋も飛沫を浴びているが、ゾロがそれに頓着する様子は無い。暑さ寒さなど埒外の男だ。心頭滅却云々などでなく、鈍さを身につけている。生きる為に。

　ゾロが羆よろしく張り手をかまして岸に打ち上げた川魚を捕獲して調理するのが目下の俺の仕事だ。調理と言っても適当な小枝で串刺しにして、マッチで火をつけた薪で炙るだけという簡単なお仕事。他にやりようが無い。せめて塩でもあればと思うがそれも望めない。
　暇だ。だからつい、ゾロの躍動する肩甲骨などを眺めてしまう。健康そのものの美しい肌と筋肉、しっかりとした骨の存在。
　それが存外柔らかく動く瞬間を、知っている。俺を、抱く、時。ゾロの雄々しい体はしなやかで、色気を纏わせ、そして、優しい。

　これまで何人のレディが、それを知って来たのだろう。もしかしたら野郎も含まれるかも知れない。しかしなんでよりによって俺なんだ。
　…詮無い。そんな事考えてどうする。欲を発散してるだけだ、と胸を張って断言するのは憚られる様な優しさを、向けられて、同じ様に返したいと思っているのだから、今更そんなしょうもない事に思いを馳せたって。
　俺に惚れてて俺が惚れてる男が美しい体できらめく水飛沫と共に俺の為の労働に勤しんでいる様を、純粋に楽しんで鑑賞してりゃ良いのに。暇だと碌な事考えねェな。
　溜息と一緒に煙草を揉み消した。

「おい、何考えてる」
　ざばざばと川から上がった羆みてェなダーリンが恐い顔で睨む。
「碌でもねェ事だよ」
　最後の獲物を串刺しにして火炙りの刑へ。こいつ骨まで食うから安心して成仏してな？
「どんな」
「…今抱き合ったら俺まで冷えちまうかな、とか？」
「すぐ熱くしてやる」
「魚焦げちまうよ」
　伸ばしかけた手を宙に浮かせたまま、む、と口をひん曲げて、どちらを先にするか数瞬、真剣に考えている。俺は焦げる寸前の魚の串を、突き刺していた地面から抜き目の前に差し出してやる。くん、と一つ匂いを嗅いで、ゾロはそれを口に咥えた。
　むしゃむしゃと、そしてばりばりと咀嚼する。ほら、猫跨ぎどころか骨も残らねェ。頑健な歯と顎だ。これで俺を噛むんだぜ、興奮した中で。俺の肉と骨が無事なのは、やっぱりこいつが優しいからだ。

「お前も早く食え」
　二尾目を自分で引き抜き口に入れ、もう片方の手で引き抜いたのを俺の目の前に突き出す。
「せっかち」
「うるへェ」
　ぱちぱちと火の爆ぜる音と、咀嚼の音。小川のせせらぎ。穏やかな風ときらめく太陽。
　ぎらぎらとしたこいつの目さえ無視出来れば、この上なく長閑なピクニックなんだが……俺もぎらぎらしてきちまってるから、しょうがねェな。
「お前の下着も乾かさねェとなんねェしな」
　そんな言い訳もある事だし。

　ダーリンと二人、暫しの間、ピクニックで。

---

20141024,1105,1110

＊「darling」が女性から愛しい男性への呼び掛けだと思うのはラムちゃんの影響ですよね？（サマンサのダーリンはDarrinって名前なんですって。）英語圏小説の翻訳で夫から妻に「ダーリン」と呼び掛けているのを読んで驚いた記憶があります。

＊羆が張り手で魚を獲るかどうかは確かめてませんごめんなさい。