忍者ブログ
『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

*サンジー!お誕生日おめでとー!
 生まれてくれて、生きててくれて、ありがとう!

拍手




 *****
      



「なーウソップー」
「んーなんだー?」
「今日、何日だっけー?」
「あー二月…、じゃねぇな、三月一日だー」
「そうかーもう三月かー」
「季節感ねぇからなー」
「全くだなー」

 釣り竿を垂らしたウソップと、紫煙をくゆらせたコックが、のんびりと会話するのを、鍛錬しながら聞くとはなしに聞いていた。
 微かな違和感の正体には、すぐに気付いた。暦ならキッチンに貼ってあり、それを最も目にしているのはコックだろうに、何故コックは今日の日付をウソップに確かめたのか。

 ウソップの釣り竿が獲物に撓り、それに気付いたルフィが駆け寄って甲板は俄に慌ただしくなったが、コックだけは依然、船縁に凭れ掛かり、ゆったりと紫煙を吐き出していた。
 視線の先は、海の彼方だ。
 コックが、食料に注意を払わずに居る。
 それは更なる違和感を連れたが、大量に揚がった魚が甲板を叩く段には、霧散した。
「今夜はフライで腹一杯にしてやる」
 コックはそう言って、盥に泳がせた魚を一尾一尾手開きにしていった。
 生き物だったものが瞬時に食材に変化する様は、鮮やかだった。
「上手いもんだな」と感心するウソップには「俺を誰だと思ってやがる」と胸を張り、「肉は?」と問うルフィには「だったら海獣を仕留めて来い」と発破をかける。
 それは何ら違和感を抱かせない、いつも通りのコックだった。

 中身は同じ魚でも衣が幾種類もあった所為で随分バラエティに富んだ様に思われた夕食が済み、クルーの解散したラウンジで、俺は一人酒を飲んでいた。コックはシンクに向かって後始末をしている。
「日付、知ってるだろ?」
 出し抜けに訊いた。
「何が」
 間髪を容れずに返される言葉は、相変わらず険がある。いつもの事なので、怯むまでもない。
「ウソップに訊いてたろ、今日の日付」
「三月一日だってな」
「そこに暦があるじゃねぇか。よく見えるだろ」
「そう言やそうだな」
「何で訊いた」
 それまで作業の手も返事も淀み無かったのに、動きが一瞬、止まった。
 やはり何か、ある。
「別に…気になっただけだ」
 既に淀み無く動き出していた作業の手が、徐々に鈍くなり、遂に止まった。
「大したこっちゃ、ねェんだけどなァ…」
 何も言わずに待った俺に、コックはやっと向き直った。
「煙草の減りが、早ェなァって…。そういや、去年もこの時期、そうだったかなァって、な」
 咥えていた煙草をシンクで揉み消し、コックは言った。
「俺は三月二日に生まれたらしい」
 思わず暦の隣に掛かった時計を見る。0時を少し回った所だった。
「…おめでとう」
 祝うべきだろうか、と思いながら、言う。コックは軽く瞠目してから、言った。
「めでてェかね?…まァ、ありがとよ」
 作業の手が止まったのは、仕事が終わった所為でもあったらしい。コックは新しい煙草を咥えると火をつけながら、俺の座る斜め向かいに腰を落ち着けた。

「俺が生まれなきゃ、死なずに済んだ命は、幾つあったかな」
 コックは自分の掌をじっと見詰めて言った。
「例えば今日俺は、鯵を百尾殺めた」
 コックがそんな事を言うのは、意外だと思った。
「食わなきゃ人は死ぬし、食わせるのがてめえの仕事だろ」
「そりゃそうだ」
 慰めて欲しいのではないだろう。慰めたい訳でもない。けれど、コックにそんな事を言わせたままで居るのは、嫌だった。
「無駄な殺戮じゃねェ」
「そうだ。だが、それでも、だ」

「俺が蹴った所為で働けなくなって身を落として滅んだ奴は居ないか?俺が食料を手にした所為でそれを手に入れ損ねた奴が飢えた事は?」
「そんな事、そいつらの責だろう。てめえはてめえの仕事をする、無駄は万に一つも無ェ」
「そんな事ァ、分かってる」
「てめえの料理で、俺達は命を繋ぐ。俺とは——」
 違う、と言いかけて、言葉が止まった。命を繋ぐ為に殺めるコックの業を、自分の野望の為に殺める己の業と比べて、尊いものだと一瞬でも思った事に、俺は驚いた。
 俺は、野望を後悔してるのか?

 不自然に言葉を止めた俺に一瞥くれてコックは、紫煙の行く先に視線を彷徨わせながら言った。
「俺を生かす為に、自分で自分の足を潰して食った海賊が居る。大事な商売道具潰しちまって、そいつはオールブルーを諦めた」
「それで、生まれてきた事を後悔してんのか」
「そうでもねェよ?」

「ただ、事実を事実として認識してるだけだ」

 淡々と、コックは続ける。
「奪わなきゃ、生きられねェ。生きてなきゃ、」
 コックは俺を、ひたと見た。
「巡り会えなかったな」
 煙草を指の股に挟む。
「俺はこれからも奪って生きて、いつか奪われて死ぬ。順繰りだ。そんで、それの間に、巡り会って、見つけて、笑って、泣いたりもして、それが、生きるって事で、」
 煙草は、再び口へ。
「後悔なんか、しねェよ」

「お前も、そうだろ?」
 俺を、慰めでもしているつもりか。
 しねェよ、後悔なんか。
 後悔も、させねェ。

 コックは、誰と巡り会って何を見つけるのか、言わなかった。
 代わりに俺が、言ってやる。
「俺は、お前と巡り会った。今後、世界一の剣豪になる」
 コックは口の端を上げた。緩やかな同意。お前がそれを肯定し、信じるのなら。
「そん時の根城は、奇跡の海が良い」
 コックは瞠目した。ゆっくりと灰皿を手元に寄せ、煙草を揉み消す。
「お前が見つけて、生きる海だ」
 コックはテーブルに肘をつき、手を組んだ。ゆっくりと、俯く。
「お前が生まれてきて、良かった」
 コックは手の甲に額を擦り付けて、洟を啜った。
「おめでとう」

「…ありがとう」
 くぐもって小さく聞こえた声が、いつもの険を帯びるまで、傍に居てやりたいと思った。


20140219,0220,0225,0228


PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
mail
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[595] [594] [591] [593] [585] [590] [588] [589] [587] [586] [583]
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
アーカイブ
ブログ内検索
最新記事
最新コメント
[04/16 koma@ツツジの花]
[02/23 タカス]
[04/18 koma]
[12/22 koma]
[12/12 ゆう]
プロフィール
HN:
utae
性別:
女性
手書きブログ
忍者カウンター
忍者アナライズ
バーコード
P R
忍者ブログ / [PR]
/ テンプレート提供 Z.Zone