『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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なんということも無かったと思う。夜半、他のクルーは寝静まった頃。いつもの通り、ゾロが酒を要求し、俺はつまみと共に提供し、その後は仕事の始末をつけていた。
背中越しに、なんとは無しに話をした。なんだったか、詳細は覚えていないが、覚えているまでもない程度の事。ウソップが釣った魚の話とか、ルフィがナミさんに叱られた事だとか、今度の島はどんなだろうとか。内容なんてどうでも良くて、俺は喋りたかったし相槌があれば尚良かった。ああだのそうかだの静かに返される声は決して悪いものじゃない。特別な意味など無いその内容に、なんの問題も無かったと思う。
すっかり仕事が終わった時、その場に音は無かった。ゾロが今使っている食器は明日の朝にでも片付ければ良い。ぽっかりと空いた様な隙間に居心地の悪さを感じた。煙草に火をつける。ジ、と紙筒が燃える音さえ聞こえた。静かに立ち上る紫煙が空気に散るのを見届けて、それでも静けさは続いたままだったから、俺は切り上げる事にした。
「俺はもう寝るから、」
終わったら食器はシンクに下げとけよ、と続けようとして、敵わなかった。音も無く、ゾロが背後に立っていた、らしい。
突然肩を掴まれ体が反転する。背中を押し付けられた戸棚が、みっともない音を立てた。ゾロの掌がぎりぎりと俺の左肩を捻る。
「痛ェ、よ」
動物的な恐怖に思わず上げた抗議の声が、思ったより震えていなかった事に安堵した。
ゾロは、恐ろしい形相で、何かに、耐えていた。俺が皿に毒でも仕込んで、それを知って犯人である俺に詰め寄りつつもその毒の痛みに耐えている様な。俺はそんな事してない。じゃあ、なんだ。
努めての深呼吸の後、声を絞り出す様に、ゾロは口を開いた。小さく低い声は、掠れていた。
「俺にどうしろって言うんだよ」
ゾロはそう、勝手な事を言い、勝手に出て行った。
右手に挟んだままだった煙草を咥える。一吸いしたらもうフィルターだ。長くなった白い灰が床に落ちた。
どう、って。俺、なんかしたか?俺がお前に何を要求したって?
食器の処遇についてはまだ何も言っていなかった筈だ。なんの覚えも無い。あるのは左肩の痛みだけだ。
そのまま途方に暮れてしまうのも業腹で、床に落ちた灰と吸い殻と、いつの間にか空になっていた食器の始末を済ませた。そんな日常で忘れてしまいたかった、左肩の痛みと動物的な恐怖は、それが終わっても、更にもう一本煙草を灰にしても、去っては行かなかった。
「まだ痛むか」
クルーの朝食が済み、それぞれの居場所に散った後。俺は当然片付け中だ、何故か居座っていたゾロが徐に移動して、俺の左後ろに立った。身が竦むのを耐えて言った。
「なんの話だ」
「少し、庇う様だから。悪かった」
そう言いながら、そっと、ゾロの右手が俺の左肩に触れる。昨晩の触れ方とはえらい違いだ。舌打ちを禁じ得なかった。
「どうともねぇよ」
弾かれた様に、ゾロの手が離れる。
「大体、なんだってんだ、俺が何しろって言ったよ?皿シンクに運んどけって言う前だったぜ?お前エスパーか」
「そんな事言おうとしたのか」
ゾロは薄く笑う。
「あれは、俺の勘違いみてぇなもんだ。気にすんな」
昨晩とはすっかり様相の違う雰囲気に、俺は悪態を吐くしか出来ない。
「気になんてしてねぇよ馬鹿」
ゾロの視線を左頬に感じる。それがふいと途切れ、もう一度、俺の左肩が優しく撫でられた。ゾロは俺の左肩を通過した己の右手を少しの間注視し、出て行った。
左肩の痛みと動物的な恐怖は、もう遠い。代わりに与えられた、何か——それがなんなのか、分からなくて途方に暮れる。
話し掛ける理由なんて、酒をせびるぐらいしか思い付かない。そうでなければ罵詈雑言の類いだが、険悪になりたい訳じゃ無し、それは却下だ。己が透明になるのなら、それで事足りるけれど。例えそうだとしても気配に聡い奴の事だ、幽霊の類いと勘違いして早々に仕事を切り上げるかも知れない、そもそも透明にも見つからない程小さくもなれないこの身なれば。
「酒」
言えば悪態を吐きながらも酒と、それに合うつまみが供される。どうしてそこまで。ただ立ち働く後ろ姿を見られればそれで良いのに、四方山話で声までも大盤振る舞いだ、勿論そんな気は無いだろうが。
気配には聡いくせに、肝心の、俺の気持ちなど露程も知らずに。俺に気持ちなど無いと思っているのやも知れぬ。そう思わせる程の鈍感さで。
俺にも気持ちはあるのだと、その気持ちをなんと呼ぶのかと、知らせる術を、俺は知らない。
20130909,0910,1206
*不器用と鈍感
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