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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*現代パラレル
*妻子持ちゾロが、昔の恋を思い出すだけの話です。
 ゾロとサンジが生涯愛し合い共に居る事をハッピーエンドとするならば、そうなりません。
 それでも構わないお嬢様方、お付き合い頂けると幸いです。

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 *****
      



 サンジとここに来たのは、ただの一度きりだ。
 あの頃は、モラトリアムの中に居た。


「俺、亀戸天神って行ったことねぇんだよ」
「じゃあ、行くか。直ぐそこだ」
 平日の良く晴れた昼過ぎ。
 社務所の脇から境内に入る。

「お、ドキンちゃん」
 そうか、今の時期は菊まつりか。
 体が菊で出来た人形。隣にはアンパンマンとバイキンマンもある。こんな人形でさえ女にしか反応しないサンジに呆れる様な、そんな自分に呆れる様な。苦笑いを噛み潰す。
「菊人形ったら、昔は怖かったな。顔だけリアルで白くて。」
「今のは、随分ファンシーだな。ちっさいレディもお喜びだろ。お、スカイツリーもある」
 社務所の手前に、どんとそびえる菊で出来たスカイツリー。社務所の奥には、本物も上半身を覗かせている。
「こんなに菊の匂い嗅ぐ事ってないよな。んー、落ち着く良い香りだ」
 煙草は吸わない事にしたらしい。胸を大きくして鼻から息を吸っている。

「なー、あの橋、すっげー急じゃねぇ?あんなんで通れんの?」
 赤い太鼓橋を見つけたサンジが、指差してはしゃぐ。
「渡ってみるか?」
 俺は笑いたいのを堪えて女橋に誘導する。
「なんだー、階段か!」
 笑顔で急な階段を昇って行く。
「こけちゃいけないんだっけ?」
 天辺で振り返り問うたサンジに、問い返す。
「振り返っちゃいけないのは何だった?」
「えー、俺、今振り返っちまったのに」
 不満気に池を覗き込み、結構高いな、と呟いて、サンジは急に笑顔になった。
「お、亀!」
 とてとてと階段を下り、更に池を覗く。泳いでる、とか、甲羅干し、とか、置物みてえ、とか。そうか、亀戸だもんなー、おお、鯉も居るじゃん、でけえ、とか、鴨、丸々太ってんな、あいつは泳いでない、石の上に立ってる、とか。

「こりゃ、藤棚か」
 池の上に張り出した葉を見て言う。
「藤まつりは、四月の終わりだな」
 追い付いた俺は言う。
「半年先かあ。綺麗だろうな」
 境内に入ってからこっち、ずっと忙しなかったサンジが、やっと落ち着いた。
「ああ、凄ぇ人出だ」
「へえ」
 半年後、藤の花を見に来よう、と言いかけた時、脇を通りかかった七五三の格好をした女の子が転びかけた。
 サンジは咄嗟に手を出し支えた。
「大丈夫?レディ」
 晴れ着を着た三歳だろう女の子は、しゃがみ込んだサンジの金髪と碧眼と、優し気な笑顔に目を奪われて、頬を染めた。
 粧し込んだ母親が「すみません」と近寄り、女の子が恥ずかし気にその後ろに隠れた。スーツを着た父親が少し離れた所で会釈をする。
 三人が離れると、サンジは目を細めた。
「可愛いなぁ」
 サンジの、子供を見る目は優しい。
「子供、欲しいか?」
「んー、あんな可愛い子、お嫁にやるの嫌だろうなあ」

 はぐらかされた。ずっと気になっていた事だ。

「お前、俺が居たら。俺と居たら。子供、持てないぞ」
「そんなの、…お互い様だろ?」
「良いのか」
「何?お前、後悔してんの?」
「するかよ」
 俺はサンジの手を取った。
「俺は、しねえよ。ただ、」
 サンジの手を、口元に寄せる。
「ごめんな」
 サンジは、鼻で笑った。
「お互い様だ、って、言ったろ?」
 サンジは手をぐっと引き、俺の指に口づけた。

 静かな、11月の昼間だった。

 結局、半年後を約束する事は無く、二度とここに来る事も無く、俺たちのモラトリアムは終焉を迎えた。


 休みの日は混むから、と、七五三のお参りは宿直明けに亀戸天神で待ち合わせ、平日に済ませる事にした。
「パパー」
 三歳になったばかりの娘が、赤い着物に着られて、履き慣れない草履をぴこぴこ鳴らして走って来る。
「走ると危ないぞ」
 久し振りにスーツを着てハイヒールを履いた妻が、その後ろを追って来る。

 亀も鯉も鴨も健在。あの日のそれらかどうかは知らないが。
 あの日のサンジを、思い出す。金髪が、昼間の太陽に光っていた。
 サンジは、父親になっただろうか。

 環境が変わって、生活が変わって、きっと、心も変わって、しょうもない行き違いが取り返しのつかない溝になって、離れてしまった。きっかけも忘れてしまう様な、些細な事で。
 今、に不満などあろう筈も無いが、それでも、時折、『何か』にサンジを思う。
 決して長い時間ではなかった。けれど、誰より濃密な関係だった。これから、妻が、娘が、それを凌駕していくだろうか。そうでなくては、困る。今は未だ、為し得ているとは言えないが。

 後先など考えずに、行動を起こしたのは俺だった。熱に浮かされての行動だった。その熱が、少し冷めた時——それは決して悪い事ではなくて、想いを受け入れられた事で冷静になれたという事だ——、それは俺の負い目となった。

 人生を、狂わせた。

 初めから終わる事を想定して、恋愛など始められない。ならば永続を目指す訳で、それはつまり、子を生さない人生をサンジに強いる事だ。
 好きだ好きだと思っていた時は、そこまで思い至らなかった。自分の想いだけで、手一杯だった。恋というのは、自分の為のものだとつくづく思う。
 それが幾許か愛という形を為すに従って、おそろしい事だと、幸福に震えるその影で、怯えた。

 怯えたりしなければ、違う人生だったろうか。
 こんな、所謂“陽の当たる人生”を歩む事もなかったろうか。
 俺が望んだ、サンジとの人生、を。歩んでいただろうか、今も。

 考えても詮無い。

 時折思い出してはほろ苦く甘酸っぱく心を擽る。
 俺にとってのサンジの様な存在に、サンジにとって、俺はなっているだろうか。

 確かめようも無い。

 昔日の恋の思い出は、抱き付いて来た娘によって、霧散した。



20121118,1128,20131017,1019
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ごめんなさい…
興奮し過ぎて文章が途中で切れてました(T ^ T)

仕事に忙殺される日々である日自宅に帰ると妻と娘の荷物がなくなっていて机の上には離婚届が置いてあって呆然として…、とか

です。。。
みのり 2013/10/24_Thu_:41:39 編集
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