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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*現代パラレル

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 *****
      



 雨雲に追われて、屋根の下に滑り込んだ。

 ぽつ
 ぽつぽつぱたばたばた

 間一髪、雨粒が地面を濡らしていく。
 ふう、と安堵の溜息を吐いて、煙草に火を付けた。
 平日の昼日中、新興住宅地にあるこの公園で遊ぶ小学生はまだ学校だし、もっとおちびちゃんはお昼寝の最中だろう。人っ子一人居ない空間を照らしていた光は、今や雨雲の向こうだ。

 たったっ「はっ」たっ

 リクルートスーツを着た男が、屋根の下に駆け込んで来た。
 雨雲に捕まり、降られてしまったらしい。お気の毒様。綺麗に刈り込んである短髪が、濡れている。
 男はネクタイを少し弛め、頭を振った。

「つめてっ」
「あっわりっ…すみません」

 飛んで来た雨粒が目に入って、思わず声を上げると、男は俺の存在に今気付きましたとでもいう様に、謝りながらこちらに視線を向けた。

 男はポケットから薄いハンカチを取り出して俺に差し出した。
「いや、イイよ。そんな濡れてねェし」
 慌てた感じが面相とチグハグで可愛らしい。着慣れていないスーツに免じて、俺はあっさり許してやった。
 ぷか、と向こうを向いて煙を吐き出すと、男は出した手を引っ込めたものかどうか、悩んでいる様だった。

「染みンなるよ?」
 促してやれば、ようやっとハンカチで肩の水気を拭く。しかしビジネス用のハンカチにそんな機能を期待するのは間違っているのだ。俺は抱えていた袋からリネンのクロスを出して頭に被せてやった。

「…すんません」

 男はわしわしと頭を拭き、スーツの水分を拭った。

 ぱらぱらぱら
 ぱら

 雨脚は既に弱まっている。
 雨雲の隙間から、光が射す。

 地面に出来た水溜りが、光を弾いた。
 眩しくて目を眇め、視線を逃すとその先に、男がこちらを見ていた。

「なに?」
「いえ…あ、ありがとうございました」

 遠慮がちに告げられた。
「どういたしまし」
 と言った所で、携帯が鳴った。
「もしもし?あぁ、ナミさん?」

 俺の意識は電話の向こうに飛んだ。
「うん、分かった、すぐ行くね」
 雨の上がった公園を、駆ける。

 貸してやったクロスの事は、すっかり失念していた。

***

 慣れないスーツで、慣れない革靴で、雨に降られた。屋根が見えたので駆け込んだ。頭の水滴を思わず振り飛ばしてしまい、人様に迷惑をかけた。その上、拭くものまで貸してもらった。親切な人も居るものだ、と見ると、通り雨の去った澄んだ空気の中で、その男の人は凛と佇んでいた。
 恐らく俺の飛ばした水滴が、鎖骨の辺りで光っていた。

 薄い色の瞳がきらりと光って、男の人がこちらを見た。

「なに?」

 柔らかな声が問い掛ける。
 なんだろう。何か、伝えたかったが、俺はその言葉を持たなかった。
 ただ、礼を。
 さらりとした手触りの布を返さなくてはならないと、洗って返すと言った方が良いのかこのまま返してしまった方が良いのか逡巡して差し出した時、男の人は携帯を取った。

「ナミさん?」

 明らかに女の名前だ。
 柔らかな声に、喜びが混じる。

「すぐ行くね」

 そう言って男の人は、こちらを振り返りもせず、屋根の下を駆け出て行った。
 揺れる金色の髪が光っていた。

 俺の手は、湿った布を握りしめるばかりだった。



20130924

*雨の降り始めに電車に乗って、次の駅で降りたら驟雨は既に通り過ぎた後でした。
 雨雲に追われて、とか、雨雲を追い越して、とか考えていたらこんな話に。なぜ。


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