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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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 8月22日付 『爪』 続編

 サンジとゾロの話

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 *****
      



 サンジがいつもの様に爪の手入れをしていると、ゾロがラウンジに入って来た。
「酒」
「単語一つで何でも出てくると思うなよ?」
 サンジは手入れの手を止めず、ちらりと視線だけで牽制した。
「酒、飲み足りない、くれ」
「三つに増やしたって駄目だ。肝心なのが抜けてる」
 わざわざ三倍に増やしてやったのに。
 ち、と内心で舌打ちをして、ゾロは渋々言った。
「オネガイシマス」
 途端サンジは、にぃ、と口角を上げる。
「ヨクデキマシタ」
 サンジは最後の爪の粉をふっと吹いて、立ち上がった。

 ラックから引き抜いた安酒を、ほい、とゾロに差し出したサンジは、瓶を掴んだゾロの指に目を留めた。
「てめぇ、爪の手入れってどうしてんの?」
 目の前の大柄な男がちんまりと爪を磨いている様を想像して、半笑いになりながらサンジは訊いた。自分の事は棚に上げる。それがサンジの基本姿勢だ。
「あ? ああ、伸びてきたな」
 サンジの視線を辿って自分の爪を見たゾロは、酒瓶をテーブルに置くと、片手を腹巻きの中に突っ込んでごそごそやった。
 何が出てくるのかと注視していたサンジは、初めて見るそれに眉を顰めた。


 サンジの爪の手入れ道具と言ったら、ヤスリだ。初めて手にしたヤスリは、小さかった自分の手にぴったりと馴染んだ。消耗する度、手のサイズに合わせて新調したそれは、毎回大きくなっていった。
 目の擦り切れた最初の、ゼフからこっそりくすねた小さなヤスリは、サンジの宝物としてひっそりと彼の私物入れの奥に仕舞われている。
 ちなみにヤスリでの手入れを覚える前は、コック仲間が手慰みにニッパーで切ってくれていた。サンジの小さな手に大人用の爪切りニッパーは大き過ぎたし、コック内で唯一の子供だったサンジは、生意気だったけれど、コック仲間の父性を甚く刺激し、何かと構い倒されていたのだ。


 ニッパーでもヤスリでもないそれは、色だけは同じ鉄の色をしていた。
「何それ」
 ゾロはそれの一部をくるりと回転させながら、サンジの疑問に答えた。
「何って、爪切りだろ。見たことねぇのか?」
 ゾロはそれの一部に己の爪を噛ませると、回転させた事で開いた部分を本体に押し付け、ぱちんと音をさせた。
 白い爪が三日月状になって、ぷちんと飛んだ。
 ゾロがぱちんぱちんと音をさせる度、ぷちんぷちんと爪が落ちる。
「へぇ」
 大きく目を見開いて見入っていたサンジは、感嘆の声を上げた。
「梃子の原理だな。文明の利器だ。お前はまた、小刀か何かで削ってんのかと思った。野蛮人だから」
 ぱちん、ぴっ。
「痛っ」
 青筋を立てたゾロの薬指の爪が見当違いの方角に飛び、サンジの白い頬に傷をつけた。
「てめぇ…」
「そんな近くで見てるのが悪い」
 野蛮呼ばわりされたゾロが腹立ち紛れにサンジの皮膚を傷つけようと尖った爪の残骸を故意に飛ばしたのではない。決して。
「…わざとか?」
 サンジの額にも青筋が浮いた。
「そんな訳あるかよ」
 ゾロは事も無げに否定する。
 サンジはぎりぎりと眉間に皺を寄せてから言った。
「そうだよな、てめぇにそんな器用な真似出来る訳ねぇわな。何せ野蛮人だからな」
 ゾロの顔は一層凶悪めいた。
「てめぇはヤスリか。何の工夫も要らねぇ、単純な道具だな、身の程を知ってるってか」

 青筋の浮いた凶悪な二つの顔はじりじりと至近距離まで近付き、すんでの所で静止すると、どちらからともなくぷいと逸らされた。

 暫く、ぱちんぱちん、ぷちんぷちんとゾロが爪を切る音だけがしていた。
 十指の爪を切り終わったゾロは、残骸を屑紙にまとめてゴミ箱に投げ入れた。

「てめぇは、毎晩手入れしてるよな」
 そっぽを向いたまま、ゾロが静かに問い掛ける。
「ああ。コックさんの爪が伸びてちゃ、お話にならねぇからな」
 これまたそっぽを向いたままのサンジも、静かに答える。
「そんなに伸びねぇだろ?」
「伸びねぇなぁ」
「それでも削んのか」
「まあな。習慣みてぇなもんだ」

 テーブルの上に置かれたままだったサンジのヤスリを、ゾロが手にする。
 目の隙間に僅かに挟まった白い粉。
 ふと、ゾロはそれの匂いを嗅いだ。
「何してんだよ」
 思いもしなかったゾロの行動に、サンジはぎょっとした。
「爪ってなぁ、削ると独特の匂いがすんな」
 ゾロは自分の行為がどう思われるかなど気にもせず、鼻先のヤスリと自分の指から生えている爪をくんくん嗅ぎ比べた。
「死んだ細胞の匂いだ」
 ゾロはそう言って、サンジに向けてヤスリを差し出した。
 ぬっと突き出されたそれを受け取り、サンジも嗅いだ。初めて爪にヤスリをかけた時、変な臭いだと思った事を思い出した。
「って事は、こいつは死臭か」
「生きてんのに切られたり削られたりしたら、痛ぇもんな」
「そりゃそうだ」
 痛いのは、生きているから。

 サンジは何となく、グラスを二つ出してそれに酒を注いだ。
 ちん、と音を出してグラスを軽くぶつけ、中身を一気に呷ると、
「グラス洗うぐらいしとけよ? オヤスミ」
 と言って、一度もゾロと目を合わせる事無くラウンジを出た。
 ドアが閉まるのを見届けたゾロは、まずグラスを空にし、次いで瓶を空にした。
 言いつけを守って、グラスを洗う。
 先程爪を切った際傷つけたらしい指先に水が沁みて、ちり、と痛んだ。



 思いの外、感傷的になってしまった。

余談:
 陽だまりの縁側で、ゾロが古新聞を広げて背中を丸めて爪を切る光景は、似合い過ぎて和みますね。傍らでは、でっかくて分厚い湯呑みに渋い緑茶が湯気を立ててるんだ。どら焼きか何かと一緒に。何たるお父さん! それもこれも全部腹巻きが悪い。(悪かない)

「てめぇ随分暢気だな」とか何とか言いながら、お茶とお茶菓子をお盆に乗せて持って来たサンジは、相も変わらず黒スーツで煙草を吸っている。
「おめぇのも切ってやるよ。ほれ、靴下脱げ」とかゾロが言って、「どういう風の吹き回しだよ」とかサンジがぶつぶつ言いながらも新聞挟んで隣に座って、素直に靴下脱いで足を差し出して切ってもらう。
 掴まれた足首が、熱い。

 どうですか。そんな老後。(老後?)
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