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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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お題をお借りしました。海賊ゾロサン『ダム』

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 その島には三つの山頂があり、古より、それぞれを縄張りとする三つの部族による諍いが絶えなかったそうだ。ある時最も好戦的だった真ん中の部族が力を失ったのを機に、東西の部族が手を結び、真ん中の山頂をダムにした。結果、諍いの元でもあった水の問題も解決し、現在は東西がそれぞれの自治で平和を保っているらしい。
 西の港から入ったんだから、そのダムよりこっち、西の山ン中に居る筈だ。ナントカと煙は高い所に上りたがるっていうし、獣道を山頂に進んだに違いねェ。
 そうアタリをつけて、街を外れて山に登った。
「ダムが出来てからは、街が拓けてね。子供らが遠足で山登りするくらいさ」
 街の探索中に聞いた通り、大した標高でもない山頂まではハイキングコースになっていた。だから油断した。昼過ぎから登って開けた山頂に辿り着いた時はまだ、空は青かった。そのどこにもマリモ頭は見当たらなかったから、山の裏手を一巡りしたって、日が暮れるまでには麓まで戻れるだろうと踏んだのだ。油断だった。西の人間は、西へ帰る。西の者は、東へは行かない。ましてや山頂三つを超えてなど。しかもそのうち一つはダムだ。つまり山のダム側に、人が楽に歩けるハイキングコースなどなかったのだ。
 藪漕ぎを経て滑落に気付いた時には既に手遅れで、意識が戻った時には星が明るく瞬いていた。あいつもどっかで、この星空を眺めてるんだろうか。おそらく、ここはどこだ、勝手に地形の変わる不思議島か、とでも思いながら。クソ、迷子探しに出てこのザマじゃ、笑えねえ。星の他は暗闇に沈む、地形も知らぬ山の中。闇雲に動かない方が良いのは分かっている。微かに痛む足首に、星が滲んで見えた。
 夜から朝になる頃合いだった。星の存在感が薄れたと思ったら、あれよとあれよという間に空は白む。夜露だか朝露だかが薄く烟る先で、蝉の声が微かに聞こえ始めた。浅い眠りと覚醒を繰り返していた意識は一気に覚醒に振れる。もう動き出しても構わねェかな、と足首を回せば痛みも既に無い。立ち上がり体を伸ばしていると、ずささと何かが滑り落ちてくる音がした。直近でそれが収まると、がさごそと立木が揺れ、マリモ頭が顔を出した。
「こんなとこで何やってんだアホコック」
 心底不思議そうに尋ねるアホマリモは、後ろ手で腰をさすっている。お前こそ、と返そうとして、半日前の俺と同じ状態だと気づく。畜生、俺は数時間意識を飛ばしてたってのに、こいつは直ぐに立ち上がれるだけのダメージかよ、クソ。
「迷子探しの散歩だよ」
「誰か居なくなったのか」
「テメェだよ!」
 苛立ち紛れに嫌味を言えば、お定まりに自覚の無い返答で更に苛立ち、声が大きくなった。それでも自覚は無いようで、答える声はどこか暢気だ。
「俺ァ迷子じゃねえぞ」
「そーかよ、道の方が迷子になったって?」
 苛々と煙草を取り出し、咥える寸前返った答えに、呆気に取られた。
「それもあるが、迷子はお前だ」
「……は?」
 最後の疑問符は、マリモ頭に届いたか分からない。どどど、と大いなる水流の音が隣の山頂から響いて、二人してそちらに気を取られたからだ。ダムから放流している。
「壮観だな」
 隣でマリモがぼそりと言うのが小さく聞こえた。
 青くない大量の水が暴力的に流れる様を見るのは初めてだった。俺にとって大量の水はいつだって、空の色を映した海だ。暴力的である事もあるが、母なる海は往々にして、俺を抱きとめるものだ。
 圧巻だった。言葉を忘れていた。息苦しいような気がした。放流に巻き込まれているような、気が。

 こんな早朝にこんな大仰なダムの放流が見られるとは思わなかった。なかなか珍しい。水の流れに目を奪われていると、常ならはしゃぐだろうコックが随分と静かなのに気付いた。隣を見ると、口をかすかに開けて放心している。
「おい、……おい!」
 肩を揺すって大声で呼びかけると、ややあって、ぼんやりとこちらを見た。目の焦点がようやく合うと、少しはにかんだように言った。
「溺れるかと思った」
 そして我に返ったか、はにかんだ事を恥じたように目を逸らして煙草を咥えた。向こうの山頂から顔を出した太陽が、コックの金髪を照らす。同じように照らされたダムと一緒になって、キラキラと光が弾かれている。それが目と、心臓の辺りを、射る。水の音は止まり、代わりに蝉の声が大きくなった。心臓の辺りをざわつかせる音が、言葉を急かせた。
「俺を、探してたのか」
「……ああ」
 言葉少なに返したコックは、そっぽを向いて紫煙を吐いた。
「俺はお前を、探してた」
「……そう」
 コックは頑なにこちらを見ない。
「理由、訊かねえのか」
「そりゃ、船にコックが居なきゃ困るからだろ」
 そりゃそうだが、そうじゃなくて。
「俺が、お前を、探したんだ」
 コックから立ち上る紫煙が乱れた。
「どうして俺を探した」
「そりゃ、探しもしねえで置いてくわけにゃァいかねえだろ……」
 紫煙は乱れたまま、か細くなっていく。
「それが、お前が、俺を、探す理由か?」
 出航まではまだ日がある。姿を見なくて数時間で、探しに出る理由。滑落するような山に踏み入ってまで。
 コックは一際大きく紫煙を吐いた。慎重な手つきで煙草を揉み消し、吸い殻の始末をしている。そして空の息をひとつ吐いてから、やっとこちらを見て言った。
「とっくに溺れちまってんだ」
 悪辣なような、諦めのような、口を撓ませた笑顔でこちらに近づき、胸元をぐいと引っ張られた。
「付き合えよ」
 言うなり唇に噛み付いてくる。息を継ぐ間も無いくちづけは確かに溺れそうで、確かに、溺れていた。とっくに。


20160811,0820,0821,0822,1226,1227

utaeさんは蝉の声が微かに聞こえ始めた早朝、放流するダムの見える山の中腹で不意におぼれそうになったときの話をしてください。
#さみしいなにかをかく
https://shindanmaker.com/595943


 あの世界の海で、太陽は東から昇って西に沈むってことで良いんだろうか、といつも悩みます。どうなの。

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