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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*グロテスクな描写を含みます

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 どろりと溶けた肉に指を埋めて、まだ形のある骨をなぞる。この骨が、確かに奴を形作っていたのだと思えば、それはただの骨ではなく、奴の一部分だった。奴の一部なら、それは奴だ。
 ゾロは皮膚と肉と脂と、血液及び血管やその他臓器、奴の骨以外の身体全てが綯い交ぜになったものから、骨を取り出した。細く婉曲した何本かの相似形が並ぶことから、肋骨だろうと判断した。指の腹でどろりとした奴の残骸を拭う。眩しいほどの白が、奴の歯を想起させた。丈夫できれいに揃っていた奴の歯は、溶けずに残っているだろうか。手指を奴の肉体に埋めたまま泳がせる。肋骨がまとまっているのの先、左右に張り出している二本の太くしっかりとした骨は鎖骨だろう。それよりも先に、手を動かす。頰があったのならばその丸みに沿って撫でるように、掌で探る。だいぶ崩れてはいるが、円いカーブは頭蓋骨に違いない。ならば常に煙草を噛んでいた歯は、この辺り。指を小刻みにタップさせ、小さく揃った粒が並ぶのを感知する。摘んで引くと、幾らかの抵抗ののち、かぽんと外れた。口蓋はもう、駄目らしい。ゾロの舌を唇を、指を首を甘く噛んだ歯は、もう並ぶことも適わずばらばらとゾロの掌に転がる。ゾロはそのまま拳を作り、ポケットの中に突っ込むと、そこでそれを解いた。
 動く度に揺れた黄色い髪、睨み合うばかりだった海色の目、口汚ない罵りを吐き出した口と喉、もうどれも判然としない。敵を蹴散らした足も、料理を生み出した手も、何もかも。生々しい記憶と悪夢のような現がゾロの中でうまく結びつかず、これが奴であることを、ゾロははっきり知っているにも拘らず、認め難かった。当然だ。奴が、こんな。ゾロに体内を好きにされて、文句の一つも言わずにいるのだ。すでに文句を言える状態でないだとか、そんなことは関係なかった。ゾロに対して、奴が。こんな。
 歯を幾つか手にしただけで、ゾロはげっそりと疲労した。持参したスピリタスの封を切り、奴だったものの上で逆さまにする。どぼどぼと落ちる液体は浸透することなく混じり合うでもなく、ただその表面を濡らす。奴が愛用していたライターの蓋を開き点火する。オイルの匂いとアルコールの匂いが混じる。ゾロは奴の心臓の辺りを目掛け、ライターを落とす。ど、とライターが沈み、炎が奴を包む。熱量はゾロがその場に留まるのを許さなかった。一歩引き、二歩引き、三歩引いたところで、ゾロは火柱を目で追った。まっすぐと天に昇っていく。かろうじて形を保っていた、しかし触ればどろりと崩れてしまう奴が、燃えていく。炎の熱は周囲の空気を歪ませ、ゾロの視界はゆらゆらと揺れた。煙が目に滲みる。
 やがて立ち消えた炎の後には、燃え滓になった奴の残骸と、白い骨が残った。ゾロはまだ熱を持つそれを、がさりとまとめて頭陀袋に収めた。何一つ残らないように、慎重に。全て、海に撒かねばならない。それが奴とした一つきりの約束だった。
「俺が死んだら亡骸は海に撒いてくれ」
 何でもない時に何でもない事のように告げられたそれに、ゾロは応と答えた。奴がどんなつもりでそう言ったのかは知らないが、ゾロがそう答えた以上、それは守らねばならない約束だった。歯の幾つかぐらいは形見に持っていても構わないだろうか。どうせゾロも海で死ぬ。その時まで傍に置いても?

「っつー夢を見た」
 まだ明かりのついていたキッチンに押し入る勢いでドアを開けて一息に喋った。これを一人胸に抱えて反芻するのは耐え難い。
「ひでえ」
 眉を顰めて聞いていたサンジは、目を丸くして一言呟いた。
「ああ、ひでえ夢だ」
「いや、夢ん中で俺をそんなむごい死体にするお前が、ひでえ」
「俺の意思じゃねえだろ」
「いんや、お前が深層心理で望んでるんだ…ひでえ」
 よよと泣き崩れるサンジの小芝居に、ゾロは鼻白んだ。
「気分が悪ィんだよ、酒寄越せ」
 指にまとわる奴の肉と、掌を刺す硬い歯の感触が、まだ残る。ただの夢だというのに。
「お前どんなヘマしたらあんな死体になるんだ」
「てめえの夢だろ俺に聞くな」
 あっさり小芝居を止めたサンジは、そう言いながらも棚を漁る。半分に切ったライムとスクイーザーをゾロに寄越し「搾っとけ」と命令すると、自身は煙草を揉み消し、シェイカーに氷を入れスピリタスの封を切った。

「だいたい、いつ俺がお前の舌やら指やら甘く噛んだってんだ」
 ゾロのよりスピリタスはだいぶ少なくして作っていた筈のカクテルで顔を赤くしたサンジは、ゾロに詰め寄った。剥き出しにされた歯が、ゾロに掌の感触を思い起こさせる。それを振り払おうと、ゾロはグラスを呷り、言った。
「今」
 出し抜けに顔を近づけ、剥き出された歯のすぐ下に舌を差し出す。再び目を丸くしたサンジは、それでも、ゆっくりと、柔く、ゾロの舌を、噛んだ。

 仄かな苦味と甘みの残る噛み跡を、唇にも舌にも首にも、耳や肩や他のあらゆる所に。
 しっかりと輪郭の残る肉体に、ゾロもまた。
 そうして夜は更けた。

 明けて朝。
「そんなになっても、お前は俺を見つけて約束を守ってくれんだろ」
 サンジは少しだけ真顔を見せて言った。
 約束などした覚えは露程もないが、いつか、何かの約束をする日が来るのかも知れない。最期を、預けるような約束を。
「ああ」
 言葉少なに答えたゾロは、サンジの歯をゆるりと撫でる。サンジはくすぐったげに笑い、夢の話はこれで終い、とばかり、煙草に火をつけた。


20160423,0424,0425
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