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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*81巻以降の内容を含みます。

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 少し昔の話をしよう。
 親に捨てられた子供が居た。
「お前のことは愛しているが、うちには要らない子だ」
 そんな理由でね。
「出てお行き。自由に生きて構わない。もう、お前はうちの子じゃない。一人の男として、どこへなりと」
 その家の生業はちょっと特殊で、その子には向いていなかった。その子も家業を好きにはなれなかった。だから互いにとって、不幸な話ではないんだ。決して悲しい話ではない。向かない事、好きになれない事で生きなきゃならない方が、余程不幸だろ?

 その子は生まれて十年に満たなかったけれど、生きるのに最低限の事が何かは知っていた。食事だ。だからその子は家を追い出された時迷いなく、食いっぱぐれない場所を目指した。最初は町の食堂だった。流行っていて忙しそうで良い匂いのする食堂の裏口で、ゴミ捨てに出て来た下っ端に自分を売り込んだ。
「おれを雇ってよ!」
 最初は無視されたね。次に出て来たのには、蹴られた。負けん気の強い子だったから、向っ腹は立ったけれど、我慢した。食えなきゃ死ぬ、そんなのは御免だった。三人目には呆れられて、四人目は笑った。夜も遅くなって寒くなって、それでもそこを離れなかったその子に「まだ居たのか」と哀れみの目を向けながら仕事を終えた従業員が裏口から次々と出て行き、厨房の明かりが消えた。ぐう、と腹の虫が鳴いて涙が零れそうになった。そこのゴミ箱を漁れば、食える残飯もあるかも知れない。でも、それまでその子は裕福だったんだ。残飯を漁るには、腹の減りが足りなかった。それからもうちょっと、そこへ踏み込む覚悟、みたいなもんがね。唇を噛んで空腹に耐える決意をした時、厨房の明かりが再び灯って、裏口が開いて男が顔を出した。それまでの誰より高いコック帽が、彼をオーナーシェフだと示していた。
「最初は雑用からだ、給料なんか出ねえが、賄いは食わしてやる。行くとこねえなら店の隅に転がしてやってもいい、毛布の一枚くれえなら貸してやる。それで良いか」
 飯が食える上に寝床まで。勿論その子に否やはない。
「ありがとう!」
 その子はなんだかんだで色々と可愛がられて雑用をこなし、結局その店では数ヶ月を過ごした。店がなくなる事になって、次に自分を売り込んで住み込んだのはベーカリーだった。その次はグロサリー、それからパティスリー。その子に自覚はなかったが、どうやらトラブルメーカーだったらしい。疫病神なんて呼ばれてな。ひょっとしたら実家が裏で糸を引いてた可能性もあるが、真相は分からない。一年近くその町の食事に関わる店を渡り歩いて、ついに行くところがなくなり、その子は船に乗った。ちなみにその船も遭難して沈んじまうんだけどな。こればっかりは、実家も手引き出来なかったろうよ。

 それからまァ色々あって、その子は自由に生きていた。親の事も実家の事も、忘れていた。全て過去の事だと。なのに、音沙汰無く十年以上が過ぎて、なんで今更。
「お前は当家の三男だ、某家と婚姻関係を結ぶのに必要だから、戻れ」
 拒否権? そんなものは無い。大事なものを質に取られている。その子は、質になるだけの大事なものを、捨てられていた十年ちょっとの間に手にしていたんだ。
「おかえり」
 血族が言う。捨てた時と同じ笑顔だ。そう、笑顔で子を捨てた親だ。愛してる、なんて嘘だった。お互いの幸福の為、なんかじゃなかった。ただ要らなかったから捨てただけ。それが必要になったから呼び戻すだけ。家の為の手駒だよ。そういう家に生まれた子だった。どうして忘れていたんだろう、強靭な肉体も、冷酷な精神も、全部使って非情を働く。そういう家だったじゃないか。愛してるなんて甘言を利用するだなんて序の口、当たり前の事だった。
 非道い話だ。
 ただいま、と言わなければ、その子が手にした大事なものは失われる。
 ただいま、と言ってしまえば、その子は大事なものの元へ二度と戻れない。
 非情の血が、疼く。
 そういう家に生まれた、そういう子だったんだ。ああ、非道い話さ。向いていない、好きになれない、と思っていた家業の血が、その子にも脈々と流れていたってわけだ。そんな事を、今更になって知るなんて。
 血で血を洗う以外、どうしろってんだ。


「それで、その寓話の教訓は?」
 刀の血を払って鞘に収めたゾロが言う。しゃがみながら昔話をした俺は、新しい煙草を取り出しながら言う。
「そんなもん、無ェよ。少し昔に、親に捨てられた子供が居た、ってだけの話だ」
 少し、今の話もしよう。
 簡潔に言って、死屍累々だ。茶会の会場は血飛沫と血溜まりに彩られ、まさかここで結婚式が執り行われようとしていただなんて、もはや誰も信じないだろう。今さっきまで殺気立った気配が充満していたこの部屋に、今は二人だ。ちょっと向こうでは、まだ誰かが暴れている音がする。多くの殺気が大きくなったり小さくなったり消えたりするのを、そばだてた感覚で拾いながらの会話だ。
「それで、そいつの大事なもんってのは、どうなった?」
「どう、なるんだろうな?」
 そんなもんは、俺が知りたい。
「どうにか、なるだろ」
 そりゃもう、どうにかするしかないのだけれど。
 ただいま、と開きかけた口が驚きで固まってしまったまま、大事なものの手を取った。疫病神に、そんな資格が?
「大事なもんとやらがお前を必要としてんなら、大事にされてやれば良いだろ。で、大事にしてやれ」
「疫病神でも?」
「疫病神だったとして」
 手が、差し出される。
「その疫病は、今ここで切り落としてくんだろ」
 じきに、こちらにも「ただいま」を言わなかった手駒のなり損ねを殺しに配下が大勢やって来る。それを返り討ちにし、ここから脱出して大事なものの元へ戻る。大事なものと、共に。
 差し出された手を取り、立ち上がる。
 ——来る。
 俺は煙草に火をつけ、ゾロは刀を咥えて、切り落すべきを待ち受けた。


20160404,0405,0406

*ゾロはおそらく行かないんでしょうけど(今のうち今のうち)
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