『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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離れてしまえば、想いも消えていくだろうと思った。
閉ざされた空間、限られた人員。募る欲は発散を求める。消去法だ、と信じていた。実際には、そう信じなければ遣る瀬無かったのだと、気付いたらもうせつなくて。
全て捨ててしまいたかった。恋なんてものは、全て。
折しもオールブルーが見つかり、サンジが海賊王に付き合う理由は無くなってしまった。まだ冒険を続けたい海賊王と、まだ道半ばの大剣豪予定は、世界中の魚料理を食べた後はまた海を行く。これを潮時と言わずして。
「俺はここで降りる」
いよいよ明朝出航という日、クルーの集った夕食の席で、サンジは宣言した。
「当面の食料は下拵えして積んである。レシピだとか食料配分のコツだとかはノートにまとめてあるから。新しいコックが見つかったら引き継いでやって。それまではウソップか、悪いけどナミさん、面倒見てやってね」
そして、サンジはルフィの目を見て微笑んだ。
オールブルーに着いて以来豪華だった食卓の、更に豪華な夕食に手を付けずにサンジを見詰めていたルフィは、ただ一言「わかった」と言って、皿に手を伸ばした。船長が承諾した以上、クルーは何も口出し出来ない。
その晩餐は、まるでお通夜の様だった。
俺の恋の弔いだ。本当は、賑やかに送ってやって欲しかったけど。何を送るのかは誰にも知らせるつもりは無いのだから、文句は言えない。
サンジは綺麗に片付いた食卓を撫でた。ここを飾るのも、あと一度だ。
サンジは深夜、甲板で煙草を吸った。海の上で流れていく紫煙を見るのは、今夜が最後だ。
長らくの海上生活を終える、その最後の海が夢見続けたオールブルーである事を、幸せに思う。自分を惜しんでくれるクルーと終えられた事を。これからは陸地での生活だ。小さな店でも構えて、俺の料理を目当てに通ってくる客にたらふく食わせてやろう。時には海が懐かしくなる事もあるのだろうか。小さいボートでも買って、自分で釣りをしても良いかも知れない。素潜りの方が早いだろうか。全部の海の、魚と泳ぐ。申し訳ないけど少し命を分けてもらう。それを客は美味いと言って食べてくれる。お嫁さんもらって子供が出来たら、泳ぎと料理を教えてやるんだ。そしていつか俺の命が尽きたら、この海に還れたら、いいな。
サンジは灰皿で煙草を揉み消した。最後に吐いた煙がすっかり消えてしまうと、オールブルーの風を肺一杯に吸い込んだ。
もう煙草だって止めても良いかも知れない。俺はもう充分大人だ。オールブルーだって見つけたんだ。恋と一緒に、捨ててしまおうか。
凪いだ気持ちでサンジが甲板から去ろうとした時、そこに剣呑な雰囲気が現れた。
「船を降りて、どうするんだ」
低く地を這わせた声は、風に乗りまっすぐとサンジの耳に入る。
「小さな店でも構えて、可愛い嫁さんもらってガキこさえて、」
先程までぼんやりと思い描いていた青写真を、努めて何気なく喋ったサンジを遮って、ゾロは言った。
「俺は」
そこで言葉を切ってサンジを見詰めるゾロの目は、揺らいでいた。
「なに?」
僅かに得た動揺を隠して、サンジは問う。
「俺は、どうなる」
あんまりな問い掛けに、サンジは気が抜けた。
「大剣豪になるんだろ?」
他に何があるんだ、とサンジは思う。
「お前は」
「だから、ここで店を構えて…」
「何で、離れる」
「は?」
常ならざるゾロの、意図が見えないのに焦れて、サンジは溜息を吐いた。
「お前さあ」
ゾロは瞳を揺らしたまま、じっとサンジの言葉を待っている。
「そういうの、良くないよ?」
「何がだ」
「そんなんじゃさ、まるでお前、俺と離れたくないみてえ」
シニカルに笑ったつもりのサンジは、ゾロが盛大に眉根を寄せるのを見た。
「まあ、大剣豪になった暁にはご馳走してやるからさ。また来たら? あ、くれぐれも一人で来ようとすんなよ、必ずナミさんに連れてきてもらえ、じゃなきゃ辿り着けねえだろ。大剣豪になって直ぐ迷子になって野垂れ死に、とか、笑えねー」
なるべくあっけらかんと言う。もう、弔った恋だ。
「で、そん時ゃお前に嫁とガキが居んのか」
「そうそう、早くしねえと俺の孫にサインねだられる羽目になるぜ?」
努めて何気なく、なるべくあっけらかんと。心掛けたサンジの軽口を、ゾロは容赦なく斬った。
「お前は、傍で見ててくれるもんだと思ってた」
ゾロの声は密やかだった。
「もしかしたら最期になるかも知れねえ食事は、お前が作るもんだと。で、大剣豪になって最初の食事は、お前が作るもんだと」
「決戦の前、お前は言うんだ」
ゾロはサンジの背に広がるオールブルーに目を遣り、語った。
『大剣豪は何が食いてえ?』きっと軽い口調だ。俺は、お前が作ったもんで一番美味かったもんを言う。多分『お前が作るもんなら何でも良い』って言うんだろう。そしたらお前は『欲が無ェなあ』って笑うか、『そんなんじゃ作り甲斐が無ェ』って怒るかすんだろ。どっちにしたって、『行ってくる』つった俺にお前は『行ってこい』って笑う。もう駄目かも知んねえ、って時、お前が飯用意して待ってんだって、きっとそれが最後の一踏ん張りになる。そんなの、死ぬ訳にいかねえだろ。そんで、俺はお前が『おかえり』って言ったのに『ただいま』って応えて、お前が作ったそれを食う。
「当たり前に、そうだと思ってた」
ゾロはオールブルー——本当に見ていたのは、おそらく、未来——から、サンジに視線を戻した。
全て捨ててしまおうと思って、船を降りる事にした。その大前提が足元から崩れていく。サンジは震える声で混ぜっ返した。
「だからお前、それじゃお前が、俺と離れたくないみてえだって…」
ゾロはしばたたいた。
「誰が、そうじゃねえって言った」
次にしばたたくのは、サンジの番だった。
「誰って…。そうじゃねえ、とは言ってなくても、お前、そうだ、とも言ってねえだろ」
「そうだったか?」
「そうだよ」
「俺も、聞いてねえ」
「何を」
「お前が、俺と離れたくねえ、って」
「言ってねえもん」
「言ってねえだけか。それとも、思ってもねえのか」
ゾロの強い視線は、サンジを逃さない。思えば初めからそうだった。サンジが恋したのは、ゾロの視線だ。目指す所へ強く向けられる視線。それが今、サンジに向けられている。
「言ってねえだけだ」
サンジが小さく答えると同時に、ゾロはサンジを抱き込んで言った。
「なら、離れるな。傍で、見てろ」
首肯く以外、サンジに何が出来ただろう。
「もう『降りる』って言っちまった」
充分な抱擁を解いた後、サンジは視線をどこに落ち着けていいか分からず、結局、煙草に火をつけた。捨てたつもりだったが、捨てなくて良いのらしい。しかし。
「前言撤回なんて、格好悪ィ」
「撤回してやりゃ、みんな喜ぶ。それに」
ゾロは柔らかな息を短く、鼻から吐いて言った。
「格好悪いのなんて、今更だろ」
「何だとこの野郎」
脊髄反射で睨みつければ、にやついているかと思われたゾロは、反して蕩けるような笑顔でサンジを見ていた。
「俺が、一番、嬉しい」
そんな事をそんな顔で言われたら、サンジは捨てた筈の恋も拾うしか無いだろう。どんなに格好悪くても。
「お前のその顔も、相当格好悪ィぞ」
「そうだな」
照れ隠しの悪態を、更に弛んだ顔で受け止められてしまっては。
サンジは朝食で食卓を飾った。最後になる筈だった、しかしそれを撤回しようという食卓を、クルーが沈痛な面持ちで囲む。
昨日が通夜なら、今日は告別式か。実は死んでませんでした、とか、どんな顔して。
サンジが言葉を探していると、ナミが切り出した。
「サンジ君、オールブルーの場所はばっちり海図に書き込んだわ。もう、いつでも来られるの。そりゃ、難しい場所よ?並の航海士では、無理かも知れない。でもね、この船の航海士は凡庸かしら?」
「まさか!世界一の航海士だよ?」
間髪入れずに返したサンジに、そうでしょう、とナミが満足げに頷くのを見て、ウソップが言葉を継ぐ。
「世界一の航海士が乗る船には、世界一のコックが居るべきじゃないか、ってのが俺らの総意だ。なあ、海賊王?」
ウソップからバトンを引き継いだルフィが、にこやかに言った。
「俺たちの船のコック、引き受けてくれ」
サンジの唇から、煙草が落ちそうになる。
「一緒に、行こうよ」
チョッパーがサンジを見上げた。ロビンが、フランキーが、ブルックが、穏やかにサンジが応えるのを待っている。そしてゾロは。
こうなる事を知っていたかのように、にやにやとサンジを促す。
「返事は」
「…しょうがねえな」
クルーの顔がじわじわと笑みに変わる。
「付き合うぜ、海賊王」
サンジが笑んだのに合わせて、その場はわあと弾けた。
「お前の差し金かよ」
サンジの円満復職を祝う宴会となった朝食を終え、居残ったゾロにサンジは問う。終始機嫌良く構えていたゾロに、サンジは少し気恥ずかしい。
「いや、晩飯の後、なんか集まってたのは知ってたけどな。呼んじゃもらえなかったし、こういう流れになるとは思わなかった、が…」
船は行く。新たな冒険へ。
「お前の居ない青写真は、誰も描いちゃなかったんだろ」
麦わらの一味が描くのは、幾年か後、誰も欠ける事無く再び訪れたオールブルーで、幾度目かも知れぬ宴会が開かれる青写真だ。
20141002,1003,1007,20151022,1102,1103,1126,1129,1130,1201
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