ネームボトル 2015/06/11__00:00

＊コーラのラベルに名前が入ってるやつを見て。
＊現代パラレル『人の気も知らないで』の二人。高校一年初夏
（金額が消費税5％当時っぽいですけど、まあ気にしない方向で）

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「暑ィ…」
　太陽がじりじりと肌を灼く頃になると、途端に恋しくなるのが炭酸飲料だ。甘くてシュワシュワするキンキンに冷えたアレを想像するだけで喉が鳴る。
　ゾロは通学途中のコンビニに入りドリンク棚まで一直線に進む。ガラスの扉を開けて赤いラベルのペットボトルを一つ掴み、レジへ。
「147円になります。このままでよろしいですか？」
「はい」
　答えながら百円玉と五十円玉一つずつをポケットからカウンターに移す。手渡された一円玉三枚とレシートをポケットに捩じ込み、テープの貼られたボトルを掴む。店を出て直ぐキャップを捻り、喉を三度鳴らして三分の一程を流し込む。喉を潤す清涼感が食道を刺激しながら胃に落ちる。
「甘ェ…」
　どちらかと言えば甘いものは苦手なゾロだが、夏のこれは別だ。歯がきしきしと軋む感じもまた一興。街路樹の下、木陰が踊りちらちらと夏の日差しが舞う中、左手でキャップを、右手でボトルを掴み、ゆっくりと飲みながら学校へ向かう。
　そろそろだろうか。
　ぱたぱたと軽く走る足音に、ゾロは想像通りと少し口角を上げる。続いて、ばしん、と後ろから肩を叩かれる。
「おーっす」
　助走を付けて人の肩を叩いた勢いのままゾロの前に回り込んだサンジは、金髪を光と影で斑に反射させている。
「うーっす」
　ゾロはボトルに口を付けたまま応える。
「お、俺にも一口頂戴」
　返事も聞かずにゾロのボトルを奪い取ったサンジはしかし、手の中のボトルをしげしげと見て、立ち止まった。奪われたのに文句を言おうとしていたゾロは、サンジの首から頬、耳の先迄が赤く染まっていく様を見た。尋常ではない。
「お前、ど、どうした…？」
「お…お前…これ、どういう…」
　サンジの手の中で、ボトルが揺れている。キャップは外れているのだ、零れてしまいそうだ。ゾロが左手のキャップを嵌めようとボトルを見ると、そこには。
　—— Sanji ——
「あ」
　何でお前の名前が。
「お前何で俺の名前の選んでんだよ…」
　サンジのか細い声に、ゾロは慌てて言い訳する。
「違う！偶然！こんなの見てねェ！選んでねェよ！」
　サンジの口がへの字に曲がる。妙な沈黙を、次第に増えてきた通学生が追い越していく。サンジは少しだけきょときょととして、宣言通りに一口含んだ。
「甘…」
　呟いたサンジはボトルをゾロに突き返す。受け取ったゾロも勢いのまま口を付ける。
「甘ェ…」
　折角の清涼感は泡と消えた。

＊＊＊

　コンビニのドリンク棚にサンジがへばりついて居る。
「ナミさんナミさん…」
「何やってんだよお前、邪魔」
「折角だから、ナミさんとかビビちゃんの名前の飲みたいじゃん？」
「アホか。んなもんただのラベルだろ。中身は一緒だ」
「そーだけどよー」
「他のオキャクサマの迷惑だろ、退けよ」
　ゾロはサンジの脇からひょいと一本抜き取る。
「あ」
「え？」
　サンジの間抜けな声に、ゾロも間抜けな声が出た。ゾロの掴んだボトルには。
　—— Sanji ——
「またかよ…」
「…選んでねえだろ」
「だな…」
　邪魔だ退け、と言った手前、手の中のボトルを棚に戻して別のを選ぶなんて事は出来ない。ゾロは口をへの字に曲げて、そのままレジへ向かった。

＊＊＊

　自販機に百五十円を入れてボタンを押す。出てきたボトルには。
　—— Sanji ——
　二度ある事は三度ある。
　ゾロは何となく「仏の顔も三度迄」と呟いた。
　何が仏の顔に当たるのか。次に偶然あの名前のラベルを引き当てたら、一体どんな閻魔が怒るのか。
　ゾロはなんだかちょっと、それを見てみたい気がしてしまっている。

「お前それ、ほんとに偶然だったらさ」
　いつの間にか背後に居たサンジが、ゾロに笑う。
「運命感じちゃうな？」
　こいつは全く、人の気も知らないで。

　金髪の弾くきらきらとした陽光と、甘く弾ける炭酸が、夏の到来を告げている。

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20150609,0610

＊己の恋心に気づくか気づかないか、くらいの微妙で甘酸っぱい感じが大好物です。

＊「仏の顔も三度」に閻魔は無関係ですね、ゾロ君ちゃんと勉強してね（濡れ衣）