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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*殺伐とした始まり(雰囲気だけ)

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 行き掛り上、ベッドが一つきりの部屋に二人で潜む事になった。幸いだったのは、俺が酒を数本買った後だったのと、コックが幾許かの食料を担いでいた事だけだった。他は最悪だ。コックの吐き出す紫煙で、狭い部屋が薄ら白く翳む。横殴りに降る雨は窓を強く叩き、空気の入れ替えを許さない。重苦しく毒の気配に満ちた空気が肺を圧迫する。細く開いたカーテンの隙間から、辺りを警戒する海兵の数が漸次減るのを確認して一息吐く。そう長く籠城する羽目にはならないだろうと若干の希望的観測で、壁際に寄せられたベッドに枕を避けて座り込んだ。既に足元の方で壁に背を預け脚を投げ出していたコックは、手元に置いた灰皿に時折灰を落としては毒煙を排出している。ぎしとベッドを軋ませた音にその面妖な眉を顰めてから、既に口を開けた頭陀袋からハムを取り出しこちらに放り投げ「食え」と言う。懐から取り出した酒の方に先ず口をつけてからそれを齧ると、俺がどんな酒を入手したか知っていたのかと疑う様にぴったりの味だった。コックが呷る小瓶にも、これは合うのだろうか。
「お前は食わねえのか」
 放り投げ返すと「要らねえ」とまたそれは放られ、俺の手元に戻る。俺には常から「飲むなら食え」と口煩く言うくせに。コックの唇には煙草と瓶が交互に運ばれる。瓶の番の時、伸ばされた首で上下する喉仏が見た事も無い奇妙な生き物の様に見えた。会話は無く、部屋の空気は更に重く沈む。
 そのまま、俺の酒はあと一口を残すのみとなり、コックは、最後の一滴を高い所から舌の上に落とした。ほんの一滴酒の乗った舌を唇に巡らす。濡れた傍から朱を掃いた様に色付いて、舌の動きと共にコックの視線が止まった。斜に俺を見ている。薄暗くくぐもった部屋の中で、それは酷く妖しく見えた。サイドテーブルに置いた酒瓶がごとんと音を立て、それを合図にしたかの様に、コックはこちらに身を乗り出した。
「なあ、俺と、いけない事、しようぜ?」
 熱い息で単語を区切る毎躙り寄るコックは、初めて見る様な顔をしている。いけない事、の意味を咀嚼し損ねたまま言葉だけを反芻するうち、遂にコックは俺の胸板に額を付けた。突き飛ばせなかった時点で俺の負けだ。勢いで浮いた腕で、コックの背中を抱いた。そこからはもう、雪崩て落ちた。
 どちらが蹴飛ばしたのだか、頭陀袋は床に落ち、何かがごろりと転がる音がした。それを最後に雨風の音が遠くなり、もっと柔く、しかし熱を帯びた吐息とそれに塗れた声で囁かれる俺の名ばかりが耳を支配した。コックの唇は甘い酒の味がした。これはあのハムには合わないだろう。コックは俺の舌に残る辛い酒の味を感知しているだろうか。
 口の中の辛味も舌に感じる甘味も直ぐに消え、夜は深くなった。

「ゾロ、ゾロ…」
 小さく俺を呼んだ声が、耳の中で谺する。その一晩で、それまでに呼んだ数より遥かに多く、安売りされた俺の名前。その一晩の殆どを、瞼を下ろして過ごしたコックは、相手が本当に俺だと認識していただろうか。
 間も無く、雨で清拭された町を照らす朝日がカーテンの隙間からコックの顔を射し、目を開かせるだろう。一口だけ残っていた酒を空にして、その時を待つ。お前といけない事をしたのは確かに俺だと、知らしめねばならない。あの辛い酒を飲んでいたのは、俺だ。


20150512,0513
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