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『ONE PIECE』の腐妄想(主に戦闘員×料理人)や感想など*大人の女性向け腐要素満載
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*サンジ君お誕生日おめでとう!(遅刻でごめん!)

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 *****
      



「誕生日だってな」
 キッチンで立ち働くサンジに、ゾロはぶっきら棒に言った。
「あ?今日?…そうだな、俺の誕生日か」
 サンジも同じ程度の愛想で言う。
「宴だって?」
「キャプテンが肉とケーキをご所望だ」
 甲板では船長を筆頭に今夜のご馳走を待ち望む歌と踊りが始まっている。それを壁一枚隔てて聞きながら料理するのを、サンジは特別好んでいた。
「主役自ら腕を振るうのか」
 苦笑いに喜色が滲んでいただろうか。ゾロが怪訝に問うのに、サンジは何でも無い事の様に答えた。
「主役もなんも、ねェだろ。この船のコックは俺だし。敢えて主役ってんなら、ご馳走だ。それでクルーが楽しめりゃ、それで良い」

 幸せな匂いを纏わせ粗熱が取れるのを待たれるスポンジは、今サンジが攪拌している生クリームでデコレートされるのだろう。シロップに漬けられていた果物も余分な水分を切るべくザルの上でスタンバイ中だ。コンロに置かれた寸胴鍋からは湯気が立ち上っている。オーブンからは脂の焦げる香ばしい匂いが漏れており、傍らには火の通っていない肉塊があと二つ、この後にオーブンに入れられるのを待っている。
 サンジがクルーに与えるのは、美味い飯。それから、それがもたらす幸福。
 この船のクルーは、状況も程度も違えど、それぞれひもじい思いを経験している。最もひもじい思いをしたのがサンジである事は、まだゾロは知らないけれど。
 誕生日くらい、何か、自分が与えたい。
 ゾロはそう思った。

 宴の後。主役にも拘らず料理をサーブする合間に後片付けを進めていたサンジが最後の皿を拭き上げた時。その様子をじっと見ていたゾロは言った。
「欲しいもん、何か無いのか?」
 ゾロは、黙ったまま皿を仕舞うサンジの様子を窺い、待った。俺がこいつにこんな事言うなんて。こいつはどう思うだろうか。そんな風に思いながら。
 サンジはたっぷりの沈黙を経て、言った。
「Je te veux」
 ゾロの頭に血が上った。あった筈の二人の距離が、無くなる。ゾロの手が、サンジの胸倉を掴んでいた。
「覚悟、出来てんのか」
 押し殺した声で問うゾロの頬は、僅かに赤い。
「俺を欲しがるっつーのは、どういう事か、分かって言ってんのか」
 サンジは瞠目して、瞑目した。
「俺こそ、お前が…」
 小さく言葉を吐いたゾロの腕には力が入り、引き寄せようという力と、これ以上は駄目だという思いが拮抗してぶるぶると震えていた。

「お前がフランス語を解すなんて。意外」
 ゾロの顔の直ぐ近くで、サンジの囁く、息みたいな声がした。
 ゾロの腕から力が抜けた。腕どころか体中から力が抜けて、ゾロの頭がサンジの肩に乗る。
 泣き出しそうな吐息が。泣き出すのを我慢する代わりみたいな吐息が。サンジの首にかかる。脱力した体の代わりに、心には過大に力が籠もっている。これが葛藤だという事は、サンジにも分かった。覚えがある。例えば、ついさっき。耳馴染みの無い言語を吐き出す前の沈黙。
 伝わらない筈が、伝わってしまった。その上、「俺こそ」?

「お互い欲しいなら、与え合ったら良いよなァ?」
 これ以上は駄目、な理由はもう、無い。

***

「俺の、何が欲しい」
 肩の上からくぐもった声が聞こえる。戯れに言っただけだから、そこまで考えていなかった。伝わるとも思っていなかったし、まるでくれるみたいな返事が戻るとも思っていなかった。
 ゾロがフランス語を解すだなんて、思わなかったのは本当だ。けれど、伝える気が本当になかったのならば、何も言わないか、もっとマイナーな言語を使った筈だ。
 本当は、知って欲しかった?知らない振りを出来るだけの余地を、残したままで?
 随分と卑怯な戯れだ。

 未来とか。身体の一部、或いは全部。大剣豪への道を見据える瞳とか。大事な刀を振るう腕やら顎やら。刀そのものとか。俺を優先させるべき第一位に据えて欲しいとか。心とか。
 どれも、要らない。
 お前を欲しいのは、本当だ。けれど、何も要らない。
「ルフィが海賊王になった時、双璧でいてェなァ?」
 首元を勢いよく駆けたかそけさが睫毛だと気づき、ゾロが目を見開いたのだと分かった。
「それから、テメェが世界一になる瞬間も見てェし、オールブルーでテメェにたらふく食わしてやりてェ」

「そんなもん、とっくにその予定だ」
 さも当然と、ゾロは言う。
「だろ?」
 俺は笑った。ゾロ相手には、滅多に見せない穏やかな笑い方だ。顔がよく見えない位置に居ると分かっているからこその笑顔。
「だから、今まで通りで良いんだ。何も、要らねェんだよ」

***

 約束を欲しがる程、くれてやれる程、暢気な海には生きていない。
 それを少し悲しく思うが、だからこその願いだとも思う。そんな海で生きる事を選んだ二人だから。
 せめて、もう少し近い場所で。心の寄り添う、体の温もりが伝わる場所で。
 誕生日にそれくらい望んだって。

「少しくらい、貰え」
 そう言って、少し近付いた心と体で、温もりのある言葉を寄せた。
「Je te veux , aussi」


20130516,0517,0702,20150226,0227,0301,0302,0303

*海賊なのにフランス語だとか諸々インチキも甚だしいけれど。
 間が空き過ぎたり細切れに書いたりで視点がふらっふらだけど。
 二人が幸せを感じてくれると私は嬉しい。
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