指切り 2014/02/14__00:00

＊日頃のご愛顧に感謝と愛を込めて！

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「指切りってのは、そもそも」
「遊女が、惚れた男に、その証にって、てめえの小指を切って贈るんだ」
「てめえは、俺に、てめえの小指を切って寄越せるか」

　情事の後に絡ませた手指を撫でながら、ゾロが言った。その声は未だ、情事の色を強く滲ませ、甘く掠れていた。

「俺はレディじゃねぇよ」
「コックだ。小指が無かったら、不便で仕方ねぇ」
「それに」
「そんなもん貰ったって、お前、困るだろ」

　最近ゾロは、甘えた様な、俺をまるで愛しいと思っている様な、仕草を見せる。情事の後に限った話ではあるが。
　快楽だけを、共にするための行為、共有するだけの関係、だったのに。

「てめえは、欲しいか？」
「俺の、小指」

　切って寄越す気かよ、野望を掴むその手の一部を？

「要らねぇよ」
「食えねぇナマモノは、お断りだ」

「てめえは、見かけによらずロマンチストじゃねえな」
「俺のロマンはレディ限定だ」
「そうかよ」
「そうだよ。お互い様だろ」
　お前のロマンは、野望限定だろ。

「お前だって、要らねぇだろ。俺の小指なんか」
「小指だけじゃ、足りねえよ」
　ゾロは俺の小指を、がり、と噛んだ。
「全部寄越せ」

「俺に惚れてんなら、丸ごと全部だ」
「おーおー、自惚れが過ぎんじゃねぇか？」
「俺はてめえに全部やる」
「おーお…、お…」
　その先を、口にするのを、迷った。

（俺に、惚れてるから？）

　迷ったままゾロから視線を逸らせないでいる俺に、ゾロが言った。
「俺は、惚れてる」
「だから、やる」

　そんな確とした眼差しで、お前が口に出すのなら。
　しっかり向き合って応えるのが、男だろう？
　お前も俺も、レディじゃねぇから、小指なんか、切ってくれるな。
　丸ごと、全部。

　小指同士を絡ませ直す。
「やる」

　指切り。惚れてる証の、強い約束。

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20130821,20140213